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ジュエリー
第2章 別離

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つまらない人間だった。人間の中でも特につまらない、宝石は、いっそ病的なまでに世俗に懐柔された人間だった。
だが、しらじらしい表層が剥がれ落ちるや、その内部は清冽な珠玉の眩耀だった。
上品で奥ゆかしい顔立ちに覗くあどけなさ、躍動、宝石のしとやかな表情は、はっとするほど嬋娟に見られたかと思えば、笑可しいほど無邪気な一面も見せる。馬鹿正直で意地悪で、たまに抜けたところがある。
珊瑚は、宝石と一緒にいて飽きない。
新しく始めた洋菓子店の仕事の帰り、宝石の継子が帰宅してくるぎりぎり直前に訪ねていって、彼女が夕飯の準備から手を離せないでいたとしても、きらきら輝く後ろ姿を眺めて、器用なくせに時折雑な手つきを笑っていると、瞬く間に時間が過ぎた。
夏も末、依稀たるうごめきを秘した街も、仄かな新涼を受けて僅かな振戦を覚えようとしていた。
ある時、蜜月の恋人達は末梢的な不注意で、二本足の動物達が神の掟に断りもなく作り上げた戸籍謄本とやらのくず紙で、宝石を粗末な宝箱にとりこめていた男の目に、見咎められた。道理に適ったまことの絆、月の盈虧と潮汐の満ち引きが紐づくのに匹儔して自然な愛は、醜悪な世間の法律を覆すほどの威力は持ち合わせていなかった。

