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ジュエリー
第2章 別離

階下へ向かった足音が、遠ざかってゆく。
こんな夜を、あとどれくらい強いられるのか。
珊瑚と宝石の不在を、いつ、どこで、誰が気付いて捜索してくれるのか。
「珊瑚」
「──……」
宝石は日射しに鈍かった。珊瑚が日傘くらいさせと咎めても、面倒臭いという理屈を盾にする。それなのに、彼女の皮膚は白い。青白い。珊瑚は死人に見つめられていた。
「あの人の前で、私を罵って」
「…………」
「嘘でも私を気まぐれだったと……、憎むと言って」
「…………」
所詮は女だ。男に比べて野心もない。我慾に劣る。
珊瑚は、広松から宝石を救い出すには、あまりに狼藉に欠けていた。
「ごめん。……ごめんね、宝石」
「──……」
こんなにもこんなにも愛している。
珊瑚にとって宝石は、この世の無二の眩耀だ。無二の神だ。
それなのに、世界は偏見だの法律だの、醜穢な譎詐が蔓延している。人間は不要なものに閉じこもってしまった。互いに空疎のモラルで監視し合って、喰い合って、破滅の道を辿っている。
こんな場所では、珊瑚が誰より安らぎを貪らせたい恋人さえ、どこにも優る美しい場所へ逃せない。どれだけ愛して、たとえ連れ出したところで、彼女の望む嚮後に到れる保証もない。
「宝石。……」
珊瑚は、カーディガンを床に落とした。自身を包んでいたブラウスのボタンを、一つ一つ、外してゆく。

