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ジュエリー
第2章 別離

* * * * * *
英明な父と貞淑な継母が和解して、八年が経った。
たつきが第一志望の国立大学に入学したのも、今や遠い昔だ。
学士号を得たあと、たつきは広松が役所勤めになる前にいた会社に入った。お義姉様との秘密ごとは、終わっていた。
秋も深まってきたある週末、たつきは解放感に賑わう居酒屋で、仲間達と飲んでいた。畳四畳ほどの個室で、一同、のめやうたえやのどんちゃん騒ぎだ。隣の個室から出てきた女に絡まれたのは、過半数の仲間が酔い潰れた頃のことだ。
たつきが手洗いから戻ってくると、顔も知らない、会ったこともない女が抱きついてきた。女は分別もなくたつきの身体をあちこち触った。酒の匂いはほとんどなかった。
ともかく女を連れて、たつきは近くのホテルへ場所を移した。善良な両親に電話を入れて、気分を悪くした同僚の面倒を見ることになったと言って、偽った。
随所に金色の混じった栗色の髪に、不健康な真珠肌、気の強そうな、それでいて人間を見れば条件反射的に縮み上がる小動物を彷彿とする目をした女は、流行りの化粧に派手な衣服で、倨傲に装っていた。たつきは女に手引きされるまま、久しく劣情に従った。
二ヶ月後、たつきは女と、役所へ婚姻届を出した。広松は猛反対したが、生まれて初めて反発した。生来優しい父親は、拍子抜けするほどあっさり折れた。お前も大人だ、自分のことは自分で決めろ、それは、彼による久方ぶりの親らしい言いようだった。
第2章 別離──完──

