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ジュエリー
第3章 蜜月、そして酷愛



 珊瑚が戸外の植え込みから腰を上げると、宝石は前掛けの紐を結んで、夕餉の準備にかかった。

 リビングと隣接した台所は、いつでもすみずみまで磨き上げてある。きびきび立ち回る恋人も、九年前から変わらない。


「珊瑚」


 珊瑚の真上に、宝石のきららかな姿が訪っていた。


「たまには手伝って」

「あたしが食べるわけじゃないし。第一、すぐに帰る。今日、冷やかしのお客さんが多くて、くたびれてるの」

「聞こえていた?広松さん、今夜は帰らないかも知れなくてよ」

「──……」


 ソファに背中をうずめたまま、宝石の腕を引っ張り寄せる。

 薄い肉の張った手首は、最近、また骨が太くなった気がする。

 珊瑚はスラックスのポケットからルージュを抜き出す。片手でさっと蓋を開けて、宝石の薄い唇に、赤いつやを塗りたくる。


「聞いてたよ。あの男がいる間、ずっとそこに隠れていたもん。やっぱりそろそろ裏庭は寒い。窓を開けてくれていたって、それに、キスの音まで聞こえてくる……」

「嘘ばかり。広松さんのキスなんて、海外の挨拶と変わらないじゃない。貴女ほどしつこくて、エロティックならともかく」


 あっ、と、嬌音に変わらんばかりの声がこぼれた。

 その唇を、珊瑚は自分のそれで塞ぐ。

 広松に色消しな挨拶を受けた、珊瑚の唇と同じ潤沢を得た花びらは、自らけなしたばかりのキスに、従順だ。
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