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ジュエリー
第3章 蜜月、そして酷愛


「あの夜、……もう会えないかと思った。珊瑚に謝りたくて、何度もメールしようとした。でも出来なくて、珊瑚から音沙汰もなかったし、ああ、終わったなって、思ったわ。──……」


 宝石の手が、今また根菜を規則正しい乱切りに分けてゆく。定規で測ってでもいる風だ。


「去年の秋ね。もう一年、か。……たつきさんに好きな女性がいるのだと聞かされて、紹介された。珊瑚だった。結婚したいと打ち明けられて、広松さんは血相を変えたわね。私も卒倒するかと思った」

「ごめん。驚かせたね。……宝石に会いたくて、少し前からクズの近くを嗅ぎ回っていたの。もう少し待つつもりだったけど、待てなくて、ノンアルコールで酔っちゃった」

「…………」


 愚鈍な男の長男は、珊瑚の係蹄に手もなく嵌まった。珊瑚はたつきを愛している妄語を通して、経歴だけは立派な与太を良人に据えた。毛頭、宝石と同じ苗字を預かりたかったばかりの茶番だ。


「宝石こそ、悪女になったね」

「そう?」

「さっきのだって。演技、上手すぎて寒かった」

「…………」


 珊瑚の肩に、たおやかな腕が絡みついてきた。甘くてほんのり苦い漿果の芳香、オードトワレを使っているところを見たことがない以上、それは宝石自身の匂いだ。


「適当にあしらっていれば良いの」


 寒い、と言ったのを本気にとらせてしまったか。

 珊瑚の腕が、彼女の愛撫にさすられる。
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