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ジュエリー
第3章 蜜月、そして酷愛


「誰かや、何かの所有物になりたくなかった。代わりに、愛はいらなかった。世界はまやかし、欺瞞と偏見、譎詐だけで出来ている。仮にあたしを愛してくれる人がいても、その人はあたしのどこかの側面だけ目に留めて、愛していると思い込んでくれただけだろうから。そんな相手と一緒にいたら、その内あたしは、表層だって見てもらえなくなる。どこか一ヶ所でも気に入った女と楽しんで、嘘偽りない快楽を漁っていた。あたしの人生、気まぐれだけで満たされれば良かった。男と馴れ合う趣味はないし、女性だって、相手が人間というだけで怖い。深入りはしたくなかったよ。でも、宝石は違った。まぁ、あれだけ土足で踏み込まれたら、逃げられようもなかったけれど」


 珊瑚は、そこで小さく笑った。宝石の悪びれない吐息が無邪気に重なってきた。


「どこまでも続く真っ暗闇、ずるくて嘘ばかりの世界で、貴女だけは輝いていた。……あたしの光」

「珊瑚、……」


 宝石の淡い光沢を刷いた桜貝を、また一枚、舌先で愛でた。

 細くて小さな指先は、味わうだけで、しどけない気分になる。

 口内が僅かに潤った。彼女のさっき切っていた、人参の風味が追いかけてきた。
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