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ジュエリー
第3章 蜜月、そして酷愛

 もっぱら泣き狂いたい衝動に耐えるだけの地獄、きっと舌を噛み切れば楽になれる。だが本能を不羈にして、弱音を認めれば、宝石との全てが終わる。

 事実、珊瑚はひととき良人の肉棒を遊ばせるだけで、宝石をなくした八年を、着実に埋め合わせていけていた。側にいられる。

 たつきとて珊瑚を愛していない。情欲の対象でもない。彼にとっても、配偶者との反自然的な営みに至る動機は一つ、世間の圧力、それだけだった。

 染み込んだ男の匂いが僅かにも残らないよう身体を洗って、皮膚の細胞が剥がれ落ちるだろうほど浄める。
 珊瑚は宝石に会う直前、常に神経質なまでに石鹸を徒費していた。化粧は僅かな瑕瑾も見逃さないで、髪も衣服も、珊瑚が身なりに神経質なのは、この天衣無縫な恋人の前に、穢れを晒したくないからだ。生来、身なりに気は遣っていた。珊瑚は女に生まれた無聊を悲観しながら、性差の悲劇を娯楽にしているところもあった。

 だが今は、着衣さえ虚偽を覆い隠すための手管だ。


「ダーメ」


 人混みにいればうもれる程度の目鼻立ち、それでいてたぐいない珠のような顔を、手のひらに挟む。


「触る方が好きなの。可愛いネコさんは、何が好きって言ってたっけ?」


 珊瑚は、宝石の素直な唇に指を近づける。はこべを与えられた小鳥も引けをとるだろうほど従順な舌が、伸びてきた。
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