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ジュエリー
第3章 蜜月、そして酷愛

 たつきの勤める父のかつての仕事場は、有名校の出身者ばかりが勤務していた。常に同級生らに一目置かれて、広松の敷いたレールを僅かにも外れないで青春時代を生き抜いた、たつきに相応しい組織だった。
 だが、社会は、さしずめ宇宙だ。たつきの月並みの能力は、同等の人材が集った中では、むしろ中より下だった。同期に先を越されながら、仕事に追われる日々が続く。生きるためにも働けない、もっぱら働くために生きる木偶の坊となり果てていた。次第に自尊心も薄れた。たつきは、企業にとって使い勝手の良い落ちこぼれだった。


 珊瑚の肉体は、お義姉様の匂いが染み込んでいる。

 たつきと枕を交わす時、珊瑚からこぼれる白々しい嬌音も、お義姉様のそれに似ている。

 珊瑚はお義姉様、お義姉様は珊瑚、二人はいつしか一つにとけ合ってしまうというのか。

 そればかりはごめんだ。たつきは生涯、女神にかしずく。

 お義姉様。お義姉様。

 珊瑚を抱くにもお義姉様としか呼べない。

 男の身体をことごとく拒絶する肉薔薇、裂傷の疼痛を隠蔽してまで女神に執着する愛念は、いっそ憎悪に値した。たつきとてお義姉様を命の次には愛していた。
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