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ジュエリー
第3章 蜜月、そして酷愛

 そうだ、命の次にだ。

 さればこそ、いやが上にも珊瑚が憎い。同じ世界に生まれ落ちた人間同士、こうも格差が出るものか。

 愛に枯渇する者と愛に潤い満ちる者、世間の羈束に従順な者と無関心な者、つまるところは後者がまことの勝ち組だ。

 人間の定めたモラルや偏見などではなく、自然、神の法則に従順な者達こそ、美に愛される。見目がどれだけ軽薄でも、その精神は愛に澄む。

 神は、世間のまやかし、欺瞞、偏見、かくのごとき人間の悪意の生け贄にこそ、救いの手を差し伸べてくれるべきではなかったか。


「宝石、ここ、……ここは?……ふふっ、あたしここ好きだなぁ。ほら、またぴくってした」

「あっ……珊瑚っ、ダメ……」

「──……」

「…………」


 珊瑚がお義姉様の身体を起こして、淫らな臀部の向きを変えた。


 その時だ。


「っ……」


 扉の音が微かに立った。

 たつきの不注意で出た夾雑音は、異様に鼓膜を苛んだ。

 心房が鳴る。その血流が、けたたましく主張する。


「…………」



 たつきは階下へ駆け下りて、玄関へ逃げた。裸足で夜半へ飛び出した。


 泣き腫らした目を想わせる、化粧で囲ったウサギの双眸、清冽なガラス玉の残映が、たつきの眼瞼にこびりついていた。

 あの扉の隙間を離れる間際、彼女の目に、一人の惨めな異常者が映っていた。







第3章 蜜月、そして酷愛──完──
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