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ジュエリー
第4章 珊瑚は宝石に想い焦がれて

たつきを幾重ものロープで絞め上げた。
男の色消しな肉体に、いつかの纏縛に見られた風情はなかった。獣臭い物体をくるんだ衣服が、ただだらしなくたゆんだだけだ。
杭を二本、用意した。それからハンマー、セメント、ビニール。水で溶いた鼠色の粉末をバケツで運んで、巨大なミノムシを転がした近くに置いた。
珊瑚が良人をこうも凝視したのは初めてだ。
九も歳下のたつきは、信じ難いほど老いている。特筆すべき特徴もない、学生時分の名残りも見られる顔面は、期待と恐怖がせめいでいた。
「憧れていたんです。俺も、お義姉様達のように……」
「だから何?」
「覗いてました。……」
珊瑚は、蛆虫をただ見下ろす。
模範生の皮を被ったはみ出し者、珊瑚はこの蛆虫の本性を、九年前から知っている。
機能しているだけで有害な臓腑の蠢動を、皮膚の上から撫で上げた。もう空音の愛を吐くのも不要だ。珊瑚は、自身の表情筋という表情筋を殺めていた。何も感じない。何も思わない。目前に転がっているのは巨大な蛆虫、病毒だ。
セメントを指に掬って、二つの耳穴を埋めていく。深く、深く、悪辣な聴覚を封じるために、こってりとした鼠色を詰め込んでいく。
「あ"ぅ……うぅぅ、はっ……」
たつきの顔が、非日常を意識した。目蓋や指先、鼠色の飛び散った、耳朶まで痙攣し出した。
対して珊瑚は、静かな思いで作業を進めた。愛する女の前ではあれだけ高揚する胸奥も、今は氷水を張ったようだ。
負の感情も寄越す価値はない。
もとよりたつきは、身内の情事を覗いて悦んだような男だ。珊瑚を寝具に組み敷きながら、「お義姉様」、と猛り狂った異常者だ。彼は珊瑚が何かしらの気色をほのめかしたが最後、意図せず救われてしまうかも知れない。

