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ジュエリー
第4章 珊瑚は宝石に想い焦がれて


「許しつっ……くりぁ……ゆる、ざ……ぐりゅっっ……!」


 赤が溢れる。血液と肉片が散る。

 ただ利き手の中指だけ、ビニールにくるんだ中指だけは、汚れないよう注意を払う。


 珊瑚の心魂が、今また無に等しい静けさを深める。

 寂寞たる海、淡いさざなみも眠った深更の海に似ている。

 月の引力を拒み続ける引き潮は、凄寥の無にとり憑かれる。他者の眩耀が差し響くだけの月は無用だ。ひとりでにきらめくもの、確かな眩耀、硬質な不変に焦がれて束の間の静謐に眠る。珊瑚を満たすのは久遠のごとき無、うつお、静謐だ。

 ただ一つの物質を破壊しているだけだ。ただ一つの邪悪、異物、壊れるべき物質を滅びに引きずり出している、それだけだ。


「ぅっ、ぐぁああああああああっっ…………」


 宝石を苦艱に沈めた蛆虫、なぶった蛆虫、 侮慢した畜生、ずっとずっとこうしたかった。

 たつきはきっと生きる限り、宝石を穢す。いかにしても穢れない、珊瑚の神を、いかにしても穢そうとし続ける。触れられなければ視る。聴く。珊瑚を宝石になぞらえて、執念深く神を犯す。

 冷罵されても構わない。世界中に裁かれても──…同じ痛苦を貪るだけでは足りなかった。彼女と同じになれなかった。同じになるより、生きる意義を与えてくれた彼女に焦がれて、滅びたい。
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