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ジュエリー
第4章 珊瑚は宝石に想い焦がれて

珊瑚は、鉄錆の匂いにまみれた部屋を出た。
閉ざした扉の向こうから、ぶざまな呻吟が追いかけてくる。
愛されたかったんだ。愛されたかった。愛してくれ。誰でも良い。愛してくれ。愛されたかった。
餓えた物質が何か喚いて、狼狂している。
「ぁい……だだ、だぁ……がっ、ま……」
愛されるだけの価値もないくせに。
珊瑚は階下へ降りてゆく。
服が汚れた。身体も血生臭い。またシャワーを浴びなければいけない。
今月九個目の石鹸も、今夜で尽きる。
時刻は七時を回っていた。先月のデートで買ったばかりの洋服を着て、化粧を直して、誰かに話を聞かせよう。宝石を除く人間が良い。恋人の話を聞かせるのに、本人では愛の告白もどきになる。検事が良い。無償で話を聞いてくれる公務員、国家という浅薄なものの飼い犬は、どうせ暇を持て余している。暇を持て余した国のしもべにお伽話を聞かせる前に、世間に娯楽をしたためよう。金銭目当てで結婚したが、男に飽きたので半殺しにした。欺瞞と偏見、吝嗇の観念に窒息した世間なら、涎を垂らして飛びつくだろう醜聞だ。百十九番をしなければいけない。万が一にも宝石が訪ってきたら、あの黒曜石に相応しからぬ光景が映ることになる。

