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ジュエリー
第4章 珊瑚は宝石に想い焦がれて

* * * * * * *

「貞淑な奥方であった村田夫人を、原石から光るものに研磨した……。それが貴女だったのですね」

「ご想像にお任せします」


 初秋の取調室は、相変わらず陰鬱と冷気が立ち込めていた。白髪の混じった検事官は、組織内での古株らしく、年齢を感じさせる顔面に配置された目を不気味に細めた。

 珊瑚は、時折、利き手の中指を撫でていた。

 やんごとなき令閨に、何度も気を遣らせた指。純朴な、そのくせ世にも甘ったるい、官能をくまなく刺戟してくるメゾの声が、美しいとささめいた指。たった今逝去の報せが入った良人の血を浴びなかった珊瑚の一部は、今にも海の匂いを立ち上らせそうだ。

 たつきの生死を握った時から、変わらず胸中は落ち着いていた。

 月の引力などに靡きもしない凄寥のみなも、長らく薬を服用していた肉体は、月の障りも気分に紐づかなくなっていた。無雑の眩耀、硬質なものを内に秘めた柔らかな女を愛する時のみ、燃ゆる情念が珊瑚を炙った。


 愛のために、貴女のために。

 陳腐な動機だ。陳腐な動機が全ての原動力だった。

 磨けば光る鉱物は、稀に持ち主の運命を操作することがあるという。だが、宝石はひとりでに輝いていった。珊瑚が研磨したのではない。初めからまばゆかった。あまりに崇高な場所にいた。珊瑚が感化されるには、宝石のいた場所は遠すぎた。
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