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ジュエリー
第4章 珊瑚は宝石に想い焦がれて





 秋気深まる某日、明朝、ある検察庁の取調室で、男の遺体が発見された。堅実で正義感に溢れ、熱誠があり、職員達から定評のある検事官だったという。

 男は、下半身だけスーツを脱ぎ捨てていた。脚と脚の間にあるべきものがなかった。

 捜査員の一人が卒倒した。彼が蓋を開けたダストボックスに、肉製の棒が捨てられてあった。とても五本指の人間の業とは思い難い、血まみれの棒は、不格好に切り取ってあった。


 二日後、ある海原のさざなみを、一つの瓶がさすらっていた。

 世間は官僚の子息殺害やら、検察官の惨殺事件を騒ぎ立てて、女の動機を面白可笑しく記事に起こす片手間に、彼女の行方を捜索していた。女の名前は、男を誘惑し骨の髄までしゃぶり尽くしたぺてん師として、蒙昧な大衆を震撼させた。男の預金通帳は、彼自身の生活した分のみ毎月引き落とされていた──…世間は、そうした矛盾を掘り下げなかった。面白味に欠けていたからだ。

 漂流した瓶の中には、人間の指が一本、遠洋で潮風に揺られなければいけない空疎と孤独を慰めていた。
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