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ジュエリー
第1章 宝石は珊瑚に恋をする



 広松は苛立っていた。

 地方議員である彼は、仕事で不具合が発生したのだ。

 市議会は、財政難に瀕していた。その不足を補うために、新たな補正予算を申請していた。

 県内では最近、極めて人の往来の盛んな、ある大通りが改修された。ところがその改修は、想定外の渋滞、混雑を引き起こした。そこに今回の予算不足だ。

 議会はこの無意味な改修を怪我の巧妙にすべく、交通整備のパートを雇った。書類上の雇用は五人、実際のところは二人という、事実とは異なる計画書を提出して、浮いた人件費で赤字を埋め合わせるという算段だ。

 ところが今日、パートの一人が過労で倒れた。労働基準局の調査が入ることになって、予算案の偽装まで明るみ出る恐れが出たのだという。


 たつきとお義姉様は名前を貸すことになった。三人目、四人目のパートとして、細工に一役買ったのだ。


「やはり持つべきは家族だな。他のやつらも、知り合いの大学生や無職の友人がいるらしい。そいつで五人だ。厚生労働省なんぞ、怖くないわい」

 一家の夕餉が終わる頃、広松は機嫌を直していた。
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