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残り火
第3章 水曜日

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 私の人生が意味を成すようになったあの日。
出会ったばかりの俊郎に理不尽に腹を立て、
タクシーから逃げ出したあと、
私は不安で不安で仕方がなく、
でもなぜ不安になっているのかわからずに混乱していた。
帰宅して、冷えた体を紅茶で温めながら、
ざわつく気持ちをまぎらわそうとしていた。

 このときはまだ俊郎の名前も聞いていなかった。
どこに住んでいるのかなんてもちろん知らないし、
知りたいとも思っていなかった。
あのときの私は愚かにも、
魂の片割れかもしれない相手と出逢えてしまった奇跡に気づきもせず、
日本人のくせに英国紳士を気取ったようないけすかない年寄りだったと、
心の中でこき下ろしていた。

 俊郎と出会ったその日の夜、
私はたぶん、俊郎の夢を見た。
内容は全然覚えていないけど、朝目が覚めると、
今まで感じたことのない安らかさに包まれていた。
まるでセックスで絶頂に達したような幸福、解放感。
すぐに昨日出会った男を思い出し、
会いたいと思い始めていた。
会いたい気持ちは、時間と共にどんどん強くなった。
なぜ昨日、あんな態度を取ってしまったのだろう、
という後悔と、もう一度会いたいという切実な思いで、
夕方にはもうじっとしていられないほどになっていた。
昨日と同じ時間に昨日と同じタクシー乗り場に着けるように家を出た。
普通に考えて会えるはずはないけど、
そこ以外に手がかりはなにもなかった。
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