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残り火
第4章 木曜日
 俊郎との初めてのキスは、
知っていた、という感想。
髭のくすぐったさ、くちびるの温度。
後頭部を包む手のひらの感覚も抱き締める腕の強さも、
全部知っていた。
予想通りというのではなく、
私の記憶のどこかに、あらかじめ、
ちゃんと書き込まれていた。
俊郎もまた、知っていた、と言う。
私がキスを受けるときの首の角度、
くちびるを離して目が合ったときの表情、
甘いにおい、もう一回してと訴える目の動き。
全部知られていた。

 キスだけで、私はもう立っていられなくなった。
目の前の男以外の全てがどうでもいいと思えるくらい、
現実から遠く離れた場所に連れていかれていた。
そこでは服を着ているほうが不自然で、
くちびるでも頬でも手でも、
どこかが密着していないと不安になった。

 俊郎が私を自然な姿にし、
私は俊郎を自然な姿にした。
清潔でなめらかなシーツのあいだで、
私たちはとても自然に、ことを成した。
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