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残り火
第6章 悪魔
 右手のひらが、俊郎をひっぱたいた感触を思い出して、
びりびり痺れている。
俊郎とは電話でもラインでも、
一切の連絡をとらないようにしているので、
そのことを怒っているかどうかの確認は取りようがない。
でも私にはわかる。
俊郎も今頃、私にひっぱたかれた感覚を思い出して、
頬がじんじんしている。

 待ち合わせの場所に、すでに俊郎は来ていた。
でも体が来ていただけで、心は来ていなかった。
そばに立って顔を覗き込んでようやく、俊郎は私を認め、
かろうじて笑ったとわかる程度に表情を動かせた。

「はい、これあげる」

 挨拶代わりに私は言い、
ぬるくなった缶コーヒーを俊郎に押し付けた。
今日こそは仲良く楽しく過ごしたいって気持ちは、
早くも挫けそうになっていた。

「微妙な温度だ」

 俊郎はひっそりと笑いながら言った。
さみしい笑顔だった。
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