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残り火
第1章 焚き火
 近くにスターバックスがあったな、と
記憶を頼りに歩いていると、
有料駐車場の脇に自動販売機があったので足を止めた。
たまには缶コーヒーもいいかもしれない。
よく買っていたころよりずいぶんと高くなった。
糖分摂取量を考えてブラックコーヒーを選ぶ。
がこんと大きな音が周囲に響く。

 久しぶりの缶コーヒーはずっしりと重く、
質素で頑丈で、黒を基調としたデザインは男っぽかった。
冷えた指先を温めるのにちょうどいい温かさ。
まるで、俊郎に手を握られているみたいに。

 俊郎は冬山の焚き火だ。
凍えた私を温めてくれる。
そばにいてくれるだけでほっとする。

 缶コーヒーを頬に当て、私はこの一週間を思う。
土曜日と日曜日、私は死んでいたといって差し支えない。
月曜日になんとか息を吹き返し、
でも次に会える日までの、
時間の長さの果てしなさに絶望していた。
水のなかで生活しているみたい。
よく溺れずに今日まで乗り切った。
今日があるから、乗り越えられた。

 週に一度の逢瀬のために、
私は生きている。
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