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残り火
第7章 残り火
 その夫婦が並んで出ていくのと入れ替わるように、
老夫婦が入ってくる。
おばあさんは車椅子に乗せられ、
おじいさんが押している。
おばあさんは、ずいぶんと具合が悪そうに見えた。
三階より上は病棟になっているので、
パジャマ姿のひとも何人か見える。
看護師さんの笑顔、
子どもの泣き顔、
表情のないおばあさんの顔。
さっきのおばあさんだ。
車椅子に乗せられたまま、こっちに向かってくる。
おばあさんだと思ったけど、
そこまで年寄りではなさそう。
病魔がそう見せていただけかも。
そして不意に、何気なく、
車椅子を押すおじいさんの顔を見て、
私は息をのみ、そっと柱の陰に隠れた。

 老夫婦が私のそばを通りすぎていく。
こんな偶然ってある?
私はもう花粉症のことなどどうでもよくなって、
急いで病院から逃げ出した。
もうこの病院には二度とこない。
そう心に決めていた。
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