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残り火
第2章 火曜日

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 俊郎と初めて出会ったとき、
あ、と思った。
春の終わりごろ、
雨の降り出しそうな夜のタクシー乗り場で、
彼はひとりぽつんと立ってタクシーを待っていた。
遠目では暗かったせいもあってよくわからなかったけど、
近くで見ると思ったより年配の方だった。
話しかけられると面倒だな、と思いながら彼の後ろに並び、
スマホを見ているふりをしていると、
彼があっと小さく声を発した。
その声に驚いて顔を上げると目が合って、
声は出さなかったけど私も、あ、と思った。

 具体的にどんな感じだったかを説明するのは難しい。
それはとにかく、あ、としか表現できない。
探しものが見つかったときの、あ。
うっかりお箸を落としてしまったときの、あ。
寝坊してしまったときの、あ。
急にぎっくり腰になってしまったときの、あ。
どれも似ているようで、どれも全然違う気がする。

 最初、学生時代の恩師かな、と思った。
失礼があってはいけないと、
めまぐるしく頭を回転させて考えたけど、
どう見ても見覚えのある顔ではなかった。
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