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残り火
第2章 火曜日
 このひとと、
恋に落ちるという予感はなかった。
そもそも私は若いころから、
青田買いのさおり、と揶揄されるほど、
自分より若い男ばかり漁っていたのだ。
結婚相手は経済的な面も考えてふたつ年上を選んだけど、
最初の不倫も二度目の不倫も、年下男子だった。
基本的に自分より若い男を、
自分好みに仕立てていくのが好きなのだ。
でも今思うと、出会って目が合ったあの瞬間に、
私はもうすでに恋に落ちていたのだと思う。

 すみません、知り合いと勘違いしました。

 あのとき、俊郎はそう言って非礼を詫びた。
少し嗄れた、いかにも人生経験が豊富な渋い声だと思った。
お互いに初対面だと思わなかったことに驚いて、
初対面であるはずの男に興味がわいた。
俊郎は私の父と同年代に見え、
でも私の父のようにくたびれておらず、
たっぷりと残っている髪は白髪と黒髪と半々くらいで、
でも決して不潔には見えず、
スーツはオーダーメイドしたように、
体に馴染んでいるのがわかった。
紳士って言葉がこれほどぴったりとくるひとを、
私は俊郎以外に知らない。
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