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絶対に許さないからね
第10章 十二年
十二年。
もう二度と会えないのに、
忘れられない相手を心に秘めたまま過ごすには、
それはあまりにも、
あまりにも長い歳月だ。
想像を絶する母の人生。
詩子は、言わないで、
と頼まれたことをぺらぺらしゃべる子じゃない。
忘れてちょうだい、と言いながらも、
詩子に口止めしなかったのは、
それはわたしたちに対する母の誠意なのだろう。
もう隠し事はしないという決意の表れなのだろう。
あのとき、もしも母に、
なぜその宿に行きたいのか、と聞いていたら、
母は行かせてもらえなくなるのを承知で、
その理由を包み隠さず白状した気がする。
そしてそれでもなお、どうしても行かせてほしい、
と懇願し続けるだろう。
こっちが根負けしてしまうまで。
どんなに詰られても、
どんなに非難されても、
どんなに罵られても、
母は黙ってうつむいて、じっと耐えるだろう。
ある意味、行きたい理由を聞かなくてよかったと思う。
聞いていたら、行きたい理由を知ってしまっていたら、
行かせるわけにはいかなくなってしまう。
母の、愚かで切実で純真な願いを、
突っぱね続けなくてはならなくなってしまう。
その業を、一生背負っていかなくてはならなくなる。
母が過ごしてきた、この十二年という歳月が悲しい。
母の人生って、一体なんなのだろう。
もう二度と会えないのに、
忘れられない相手を心に秘めたまま過ごすには、
それはあまりにも、
あまりにも長い歳月だ。
想像を絶する母の人生。
詩子は、言わないで、
と頼まれたことをぺらぺらしゃべる子じゃない。
忘れてちょうだい、と言いながらも、
詩子に口止めしなかったのは、
それはわたしたちに対する母の誠意なのだろう。
もう隠し事はしないという決意の表れなのだろう。
あのとき、もしも母に、
なぜその宿に行きたいのか、と聞いていたら、
母は行かせてもらえなくなるのを承知で、
その理由を包み隠さず白状した気がする。
そしてそれでもなお、どうしても行かせてほしい、
と懇願し続けるだろう。
こっちが根負けしてしまうまで。
どんなに詰られても、
どんなに非難されても、
どんなに罵られても、
母は黙ってうつむいて、じっと耐えるだろう。
ある意味、行きたい理由を聞かなくてよかったと思う。
聞いていたら、行きたい理由を知ってしまっていたら、
行かせるわけにはいかなくなってしまう。
母の、愚かで切実で純真な願いを、
突っぱね続けなくてはならなくなってしまう。
その業を、一生背負っていかなくてはならなくなる。
母が過ごしてきた、この十二年という歳月が悲しい。
母の人生って、一体なんなのだろう。