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絶対に許さないからね
第4章 愚かな母
「美香、お前が持って行ってやれ。
挨拶してこい」
優しいおじさんふうだった兄が、
急にリアルな兄になる。
やだよって言おうとして、
でもそうするとわたしがしのぶさんに、
行ってこいって言ってるのと同じだと気づいて、
無言で兄を睨んだ。
いつからそんな策士になったのだ。
仕方がない。
今日はどうやったって会わなくてはならないのだ。
わたしは鼻背に皺を寄せた顔を兄に見せ、
戸惑っているしのぶさんからお盆を受け取った。
リビングに面した引き戸の前。
勢いが大切。
迷っていたら、たぶん一生開けられない。
「美香です。入るわよ」
返事を待たずに、
わたしはお盆の底面を片手で支え、引き戸を開けた。
唐突に、異界に迷いこんだように空気感が変わる。
手足の先まで、凍えるくらい緊張している。
畳のにおいと白檀の香り。
小さなテーブルに載せられた小さな仏壇。
父の遺影。
そしてその横で、ちょこんと座っている――
挨拶してこい」
優しいおじさんふうだった兄が、
急にリアルな兄になる。
やだよって言おうとして、
でもそうするとわたしがしのぶさんに、
行ってこいって言ってるのと同じだと気づいて、
無言で兄を睨んだ。
いつからそんな策士になったのだ。
仕方がない。
今日はどうやったって会わなくてはならないのだ。
わたしは鼻背に皺を寄せた顔を兄に見せ、
戸惑っているしのぶさんからお盆を受け取った。
リビングに面した引き戸の前。
勢いが大切。
迷っていたら、たぶん一生開けられない。
「美香です。入るわよ」
返事を待たずに、
わたしはお盆の底面を片手で支え、引き戸を開けた。
唐突に、異界に迷いこんだように空気感が変わる。
手足の先まで、凍えるくらい緊張している。
畳のにおいと白檀の香り。
小さなテーブルに載せられた小さな仏壇。
父の遺影。
そしてその横で、ちょこんと座っている――