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絶対に許さないからね
第6章 意地悪
「温泉に、行きたいらしいんだ」

「は?」

 思わず、感じの悪い返事をしてしまう。
そしてそれにつられるように、
わたしの中に黒い感情が湧き上がってくる。
のし掛かってくるように重くなる。
またわたしは、嫌な女の顔になっていく。

「なによ、温泉って。だれと行くのよ。
さおりさん?」

 今でも母と親交のある唯一の友人の名前をあげてみた。
でも、違うというのはわかっていた。
なぜわかるのかと聞かれたら、勘としか答えられないけど。

「いや、ひとりらしい。
行かせてやっても、いいか?」

 兄の口調は軽かった。
わたしが、いいよって答えると予想しているみたいに。

「なに言ってんの。
だめに決まってるじゃん」

 なにを考えているのだ。
不倫の前科のある母を、
そんなところに行かせるわけにはいかない。
温泉なんていかにも怪しいじゃないか。
こっちをひとりで出たとしても、
向こうでだれと落ち合うかわかったものじゃない。

 ほんの少しの間のあと、
兄は笑い混じりのため息をついた。
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