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絶対に許さないからね
第10章 十二年
 わたしが詩子に、お化けの出る宿だ、
なんてうそを言ったからだ。
そのうそを媒介して、
亡霊を呼び覚ませてしまった。

「十二年だぞ……」

 わたしは呻き声をあげた。
考えないように頭から除外していたけど、
やっぱりそうなのだ。
あの温泉宿は、あいつとの思い出の場所。
行ったことはない、と母が言うなら、
一緒に行く予定だったか。
その約束を果たせないまま、
あいつはこの世を去ってしまったのか。

 たぶん詩子が、この宿お化け出るんだって、
と母に言ったのだろう。
おばあちゃん、お化け見たことある?
その問いかけに母は――

 母はまだ坂井直人を忘れていない。
どうしても行きたい、
と泣きながら懇願するくらい、
思い出を大切にしている。
十二年も経っているのに、
坂井直人を愛し続けている。

 十二年と簡単に言えてしまう言葉の響きの軽さと、
詩子が生まれる前から、
という実際の時間経過の重さとのギャップに驚く。
詩子が生まれてから、
ほんとうにいろいろなことがあった。
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