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情報ねずみは眠らない
第3章 御曹司の裏の顔
「だ、だって、作者の名前、女性だし…」

「それはペンネーム。正真正銘、僕が執筆した僕の小説だよ」

千里はパソコンを操作し、小説の打ち込み原稿や、担当と思われる人間とのメールのやり取りまでひなに見せてくれた
それは情報屋を生業とするひなにとって、充分な証拠に成り得る程のものであった

「まぁ、売れたのはその一冊だけだけどね。それ以外は金持ちの道楽みたいなもんだよ。出版社の人たちも、僕がこの家の息子であることは知らないし」

千里は自虐的に笑い、ノートパソコンを閉じた

「そういうわけで、僕、物書きだからさ。人間観察も小説の参考にする為にやってたんだ」

そう話す千里の美しい横顔に目を奪われながら、ひなは少しずつこの奇妙な経歴の男への警戒心を薄めていた

「キミを部屋におびき寄せたのも、何かネタになる話が聞けそうだなーって思ったから。…思った通り、キミはいろいろ面白い話持ってそうだよね…」

千里はニンマリと笑いながら、作業服のひなを上から下まで眺めた

「…あなたの事は分かった…。一応、信用もする」

「千里でいいよ」

観念したひなに千里は優しい声で言った

「…えっと、千里。私のことは、ひなって呼んで」

「ひな!」

やっと名前を聞けたことが嬉しいのか、千里はオウム返しにひなを呼んだ
そんな無邪気な千里に、ひなはつい頬を緩めてしまう
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