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波の音が聞こえる場所で
第2章 JR上野駅と演歌についての考察、そして子供たち
 新幹線は直江の故郷を走っている。直江が通った高校のある街にも新幹線は止まるはずだ。新幹線駅の誘致活動なんかしなくても、新潟県で二番目に大きな街をShinkansenが素通りするはなんてことはない。だってその街は新潟県で二番目に大きな街なのだから。
 おそらく新潟県で二番目に大きな街は、暗闇の中でも光の数は多くて、その光線は遠くまで及んでいるに違いない。新潟県で二番目に大きな街の光の力は強い。闇が深いほど光は輝く、そして誰かの心を目一杯くすぐってその誰かの手を引く。
 でも僕の行き先は新潟県で二番目に大きな街ではない(実は僕の辿り着いた海辺の街は新潟県で二番目に大きな街だった)。
 ふと思い出したことがあった。人の心をわくわくさせる演歌なんてない。演歌の舞台は北国の海辺の街で、雪が降っていて、事情を抱えた男と女がいて、そしてその玄関口はJR上野駅でなければならない、なんて偏見以外の何物でもないこだわりに僕は抜け出せなくなっていたが、一つだけ心が躍るような演歌を思い出したのだ。
 僕が小学生だったときの運動会。五年生か六年生だったと思う。グランドにその曲は堂々と流れていた。走り競争を鼓舞するような曲でなくて、そういう催し物に必要不可欠な軽音楽でもなかった。何だか不思議な曲だった。それを歌っていた歌手はとにかく世界に向けて挨拶していた。
 僕は挨拶しまくるその歌手が知りたかった。後々放送室に行って僕はその歌手を知った。その歌手の名前は三波春夫。そう言えば三波春夫も新潟県の出身だったと思う。
 放送室で初めてみたシングルレコードは折り紙よりも一回りくらい大きくて、ジャケットには和服を着た三波春夫が、笑いながら両手を広げていた。
 彼から不幸とか絶望とか、そういう言葉は連想できない。人のよさそうなおっさんは、満面の笑みを浮かべて歌いながら世界に向けて愛を振りまいていた(三波春夫に関係ある方々がこれを読まないことを願っているが、万が一何かの間違いでこれをお読みになられたら、どうもすみませんでした)。
 僕の頭の中にまたあのワードが浮かんだ。縁……、でも今の僕は世界に向けて「hello」と挨拶する気にはなれない。
 何となくだがつきのようなものを感じ始めていた。でもそれは感じていただけで、僕はそれから地獄に自ら落ちていったのだ。
 
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