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波の音が聞こえる場所で
第3章 自分を百回殴りたい
 地獄へようこそ、ではなく朱雀へようこそ。
 朱雀山城駅の自動ドアが開くとまたあの冷気が僕の体を刺してきた。そう、冷気は体を刺すのだ。冷気が持つ鋭利な先端は、やがてずんぐりした形に変わって僕の体の中まで突進してくる。追い出そうとしても僕にはその攻撃に備えるものがない。
 朱雀山城駅の朱雀側を出ると正面に高速道路の高架が直ぐ近くに見えた。
「兄さん、寒くないの?」
 客待ちをしていたタクシーの運転手が、助手席のウインドウを下げ僕の顔を覗き込むよにしてそう声をかけた。
 この季節にコートを着ていない人間は朱雀にはいない。絶対にいない!
 シャツにジャケット、そしてズボンに安物のビジネスシューズ、塾の教材しか入っていないデイパックを、僕は背中に背負うのではなく寒さ凌ぎのために(気休め)しっかりと胸に抱えている。この季節こんな格好をしている人間は朱雀に不釣り合いなのだ。
「……」
 声が出ない。
「兄さん、乗っていきなよ。それとも誰かと待ち合わせ?」
「大丈夫です」
 金さえあれば乗るに決まっている。金がないんだ!それに誰かと待ち合わせをしたくてもその誰かがいないんだ!と叫びたい。
「兄さん、東京の人? 東京と朱雀では寒さが全然違うからな。風邪ひいちゃうよ」
「あの、この近くで何か食べ物屋さんとかありますか?」
 朱雀の寒さもひどいが、空腹が限界に近付いている。
「今の時間だったら……どうだろうね、この辺居酒屋が多いからね。国道の方に出れば二十四時間の牛丼屋とかあるけど。コンビニだったらあっちにもこっちにもあるよ」
 タクシーの運転手は顎を動かして僕にコンビニの方角を教えてくれた。でも顎の動きがめちゃくちゃあいまいでよくわからなかった。このとき一番近いコンビニの道順を教えてもらえばよかったのだが、「あっちにもこっちにある」という運転手の魔法の言葉に僕はすっかり安心してしまった。東京も朱雀もこれだけは同じなのだ。コンビニなんてどこにでもある。そしてここでも僕はスマホの威力を思い知った。あれさえあれば簡単に検索できたはずだ。
「高架の脇道を歩けば片側二車線の道路に出るから。そこで左に曲がれば国道の方に向かうことになるよ。コンビニは右に行っても左に行ってもあるからね」
 とタクシーの運転手は教えてくれた。僕は寒さに身を縮めながら片側二車線の道を目指した。
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