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波の音が聞こえる場所で
第3章 自分を百回殴りたい
 店に入ると正面におにぎりや弁当などが置かれている棚が見えた。右側から「いらっしゃいませ」という女性の声が聞こえたが、僕の体が反応しているのは、女性の声ではなく、おにぎりの数だ。
 食事の時間なんてとうに過ぎている。僕は願った。どうか朱雀の人たちが少食でありますようにと。
 僕は一歩一歩商品棚に近づいた。店の中は温かいのに、僕の心は逆に冷えていった。ない……おにぎりが見当たらない。ついでに言えば弁当もない。おのれ!朱雀の大飯ぐらい共が!怒りと絶望で僕の体は動かなくなってしまいそうだ。それでも僕は商品棚に向かう。そして僕は商品棚の前にたった。
 上から下、そして右から左、どこかに僕の腹に収まるおにぎりがあるはずだ。空っぽ……、この世に神も仏もいないのか……、ん? 
 少し屈んでみる。おおお!右奥の隅に海苔に巻かれたおにぎりがある!おにぎりの種類なんてこの際何でもいい。腹の中に収まれば、僕の腹も一応は納得するはずだ。
 僕は手を伸ばして、そのおにぎりを手にした。勝利者の気分を僕は今味わっている。勝った……僕は勝った。何だか自分でもよくわからないけど僕は勝利した。
 空腹は真っ当な思考をごちゃごちゃにする。よくよく考えれば、腹の虫をなだめるのにおにぎりなんて必要ない。コンビニにはパンだってある。最悪スナック菓子だって僕の腹は大歓迎するはずなのだ。
 でも僕はついさっきまで現世と次の世の境にいたのだ。寒さにふるえ、身を縮こませながらどうにかコンビニというオアシスに辿り着いた。
 僕は僕を褒めるべきだ。よくやったぜと言ってやるべきだ。
 僕はそのおにぎり一つと、腹を膨らませてくれるような比較的大きめのパン二つを買った。店内での飲食はこのコンビニではできない。仕方なく僕は店を出て、師走が始まろうとしている朱雀の闇の中に戻った。
 腹を満たすものがあるだけで、厳しい寒さを凌ぐことができるような気がする。僕はしゃがんでおにぎりを頬張った。コメの香り、そして鮭の味が口中に広がる(僕が買ったおにぎりは鮭のおにぎりだった)。鮭のおにぎりなんて何百回も食べたと思う。でも今僕が咀嚼しているおにぎりは全くの別物だ。
 コメは魚沼産のコシヒカリ? ひょっとして鮭は村上(新潟の村上は鮭で有名だということを僕は後で知った)で捕れたもの?
 間違いなくそれは人生で一番おいしい鮭のおにぎりだった。
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