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波の音が聞こえる場所で
第3章 自分を百回殴りたい
「お願いがあるんですけど」
 僕はそう切り出した。このタイミングを逃してはならない。僕のお願いはそういう種類のものだから。
「何でしょう?」
 と僕のストライクゾーン。ミステリアスないい女。
「始発までここに置いてもらえませんでしょうか?」
「……」
「……」
 僕のストライクゾーンと吉田君は黙って顔を見合わせた。
「何ならこのコンビニでお手伝いします。もちろん給料なんていりません」
「それ無理です」
 吉田君即答、非情な答え。
「無理!」
 絶望を感じた僕。すかさず僕のストライクゾーン。
「バイトじゃない人にここで働いてもらうわけにはいきません」
「そっちの無理?」
「そっちの無理です」
 身長が百七十五㎝くらいの吉田君。黒縁の眼鏡に整髪料で整えた短髪。でも体型は「ひょっとして高校時代柔道してたとか?」と訊ねたくなるようながっちりした体つきをしている。彼より身長が十五㎝くらい高い僕でも、掴み合いの格闘技になったら僕はあっさり負けるだろう。
「一つお訊ねしてよろしいですか?」
 と僕のストライクゾーン。名札には簔口と書いてある。でもって何となく目が潤んでいる(気のせい?)。
「何でしょうか?」
 簔口さんの質問には僕は何でも答える。
「そんな格好してでどうして東京から朱雀まで新幹線に乗って来たんですか?」
「……」
 僕は一瞬言葉に詰まった。逃走している、あるいは逃げてるなんて言ったら、それは間違いなく通報案件だ。そして僕は何かの雑誌で特集を組まれる自分探しの旅をしているわけではない。
「……」
 簔口さんが僕の答えを待っている。多分吉田君も。
「冒険してます」
 僕は堂々と言った。
「冒険?」
 簔口さん、僕の答えに驚いている。間違いなく吉田君も。
「どこに辿り着くかわかりません。でも振り返ることなく一歩前に進みたいんです。一歩進んだらまた一歩前に。僕は冒険をしてます」
「まじカッケー」
 と吉田君。でも僕の本当の姿は惨めでぜんぜんいかさない男なんだ。東京から逃げてきたんだ。
「吉田君、マニュアルでお客さんの滞在時間て決められていたっけ?」
「そんなの俺聞いたことないです」
「そうよね。どんなに長くいても客さんを追い出すことなんてできないわよね」
「できないです」
 吉田君にポンと肩を叩かれた僕は泣き出したと思う。できれば肩を叩くのは簔口さんにお願いしたいが。
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