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波の音が聞こえる場所で
第2章 JR上野駅と演歌についての考察、そして子供たち
 二十一時二十六分、僕が乗った新幹線が発車した。僕は腕時計を腕に巻かない。スマホも持っていないので、二十一時二十六分という時間が正しいのか、それとも数分あるいは数十秒遅れているのか僕にはわからない。だがJR東日本の仕事に間違いはないはずだ。
 僕の向かうべき場所は、僕の家でもなく僕の友人の家でもなかった。誰かに導かれたわけではないが、僕が向かった先はJR上野駅だった。
 JR上野駅に向かう途中、僕は僕を思いきり殴りたくなった。それは僕が何かから逃げることについてではない。誰かから強く非難されようが、僕は僕の逃走について後悔などしていない。僕の拳は僕の計画性のなさに向かっているのだ。
 東京に住むすべての大学生はスマホを持っている……に違いない。そのスマホの中には連絡や情報を得るためのツールだけが埋め込まれてるだけではない。実はスマホの中には見えないが生きる上で極めて重要なものが存在しているのだ。
 お金。
 僕はキャッシュレス時代を呪いたくなった。いや、呪いの先はやはり僕自身だ。電子マネーをスマホに閉じ込めた僕がすべて悪い。というか、逃げるなら少しは冷静になれと僕は僕に言いたい(もう遅いかもしれないが)。スマホを粉々にする前に、その中にひっそり身を隠し僕を経済的に支えている僅かな己の財産について考えるべきだった。
 スマホからは離れたかったが、金と縁を切るつもりなど僕にはなかったのだ。
 でも僕は新幹線のチケットを購入して八割ほど乗客で埋まっている自由席に腰を下ろしている。僕にもまだ辛うじてツキがあったのかもしれない。僕のジャケットの内ポケットに高校時代から使っているくたびれた二つ折りの財布が入っていたのだ。中を覗くと一万円札一枚と千円札が四枚入っていた(残念ながら膝の上に乗せたデイパックの中には金融資産が全くなかった)。
 非常用の財布だった。飲み会か何かで一人いくらと割り勘の額が決められたときなどに使うつもりでいたし、極々稀だがまだキャッシュオンリーのお店もないわけではない。まさに緊急時に使用する財布、そして今は僕の逃走の資金。 
 最近飲み会には出かけてないし、現金だけのお店にもめぐり合っていないので、財布にいくら入っているのか正直僕にはわからなかったが、福沢諭吉と野口英世に出会った瞬間、僕は逃走中にも関わらず小さくガッツポーズをした(不謹慎だが)。
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