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波の音が聞こえる場所で
第2章 JR上野駅と演歌についての考察、そして子供たち
 苦難は続く。
 取り合えず僕は新幹線の自由席窓側に座ることができたのだが、前の座席から駅弁の匂いが後の席に座っている僕に漂ってきたのだ。逃走のせいなのか、僕の頭の中はついさっきまで空っぽだったと思う。だから空腹を感じることなく僕はどうにかJR上野駅に辿り着いて新幹線のチケットを購入し、暖房が効いた車内にいるのだ。
 人は腹が減ると匂いに敏感になる。
 僕の腹の中には昼食べた……、いやいや今昼何を食べたのか考えるのはよそう。そんなこと考えれば考えるほど僕は空腹と向かい合わなければならない。そんな自分と対峙しても僕にはなんのメリットもないのだ。
 すっからかんになろうとしている僕の財布の中身についてしっかり考えることの方が、今の僕には優先されるべき事柄なのだ。もう福沢諭吉は財布の中にいない。
 車窓を流れる闇に目をやるより、瞼を閉じて頭の中に広がる黒い風景に心を寄せた方が断然いい。そうしてしばらくすれば眠ることもできるかと思ったが、腹の虫が僕の睡眠の前に立ち塞がった。
 そんなときだった。僕の頭の中にふと演歌というワードが浮かんだ。飢えを凌ぐために僕はこの演歌というワードにすがる。
 ところが僕はここである重要なことに気付いた。僕は演歌をよく知らない。それどころか音楽に全く興味がない。何とかpopとかに近づきもしなかった。
 僕の耳に入ってくる音楽と言えば、街中の騒音に紛れて聴こえてくるやつとか、テレビやラジオ(僕は今テレビを見る習慣もラジオを聴く習慣もないので、中学のときか小学校のときまで遡らなければならない)から偶然聴こえてきたやつとか、つまり僕の音楽の知識なんてものはその程度なのだ。だから僕は演歌について熱く語ることなど到底できない……が、僕の中に辛うじて存在する演歌に対する知見(そんなものなんてないのだが)を総動員してハングリー状態の自分の気をそらさなければ僕は獣になるかもしれない。
 ここからは僕の独断だ。人はそれを勝手な思い込みともいう。予め演歌ファンの人達に僕は謝っておく。「申し訳ございません!」と。
 僕にとって演歌は!
 演歌は暗い。演歌は男と女のどろどろとした愛憎劇のBGMだ。演歌は南国に似合わない。ていうか似合うはずがない。ついでに言えば演歌の舞台は山よりも海辺の方がいい。そして演歌にはハッピーエンドはない。じゃあ僕の逃走劇の結末は……?
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