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波の音が聞こえる場所で
第3章 自分を百回殴りたい
 別れのときがやってくる。冒険なんて言葉を取り消して、できることなら僕はここで簔口さんと働きたい。でもここでそんなことをしたら僕の逃走がインチキになってしまうような気がした(間違いなくインチキだ)。
 逃げることのどこにも正当性なんてないのだから、インチキでも誤魔化しでも何でも構わない。ここで働く権利は僕にもあるだろう(おそらく不採用だろうが)。でも……ここじゃない。こんないい人たちがいるコンビニが僕の冒険の終着駅ではない。
 暖かな空間で腹が満たされた僕は何度かうとうとした。でも簔口さんも吉田君も働いている。客の対応をしたり、搬入された商品を棚に陳列したり、掃除をしたり。僕は何度も根性なしになろうとしている自分をぶん殴った(心の中で)。寝るな!お前は冒険者なんだ! 起きろ!このクソ野郎が、と僕は僕を叱咤激励……叱咤だけした。
 五時五十分、コンビニの時計が僕にそろそろ出発だと教えてくれる。六時十四分まで少し時間がある(このコンビニから朱雀山城駅までおおよそ十分くらい)。体と心の準備をしておかなければならない。僕は軽く屈伸運動をした。走ることもあるかもしれない、だから僕はアキレス腱を伸ばした。背伸びをしたりしてとにかく体をほぐした。  
 外に出ればまた寒さとの戦いが始まる。僕が朱雀山城駅に着いたときに感じた寒さよりも早朝の冷え込みはさらに厳しいはずだ。覚悟を決める。
「お世話になりました」
 僕はレジのところに行って簔口さんと吉田君にそう挨拶した。
「ちょっと待ってください」
 吉田君はそう言うと制服を脱いで総菜パン四つとお茶のペットボトル二本を買った。それをレジ袋に入れて僕に渡す。
「これ、俺と簔口さんからの餞別です」
 吉田君がそう言った。
 こんなに良くしてもらってそれは受け取れません、と言って辞退すべきなのだが、僕はそんなに格好よくなかった。
「ありがとうございます」
 僕は躊躇うことなく総菜パン四つとペットボトル二本が入ったレジ袋を受け取った。
 僕の懐具合が僕にそうさせた。そういう自分が僕は嫌いだが、この先のことを考えると、格好ばかりはつけていられない。僕の逃走には総菜パン四つとお茶のペットボトル二本が必要なのだ。だから僕はありがたく簔口さんと吉田君の餞別を頂戴する。
 コンビニの自動ドアが開く。僕の後ろから「がんばれ」という声が聞こえた。
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