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波の音が聞こえる場所で
第4章 エンドオブザロードではなくエンドオブザ線路

六時二十二分、JR弥彦線二両編成のE129系弥彦行は時間通りに朱雀山城駅を出た。JR東日本の仕事に狂いはない。セミクロスシートとロングシートに高校生のような男女がぽつぽつと何人か座っていた。こんなに朝早くから彼らは部活動の朝練に向かうのだろうか。
東京とは全然違う。何が違うのか? 静かだ。異様に静かだ。全然知らない人間がたくさんいて、だから関わり合うことを拒みながら息をするあの妙な感覚が全くない。
だんだん田舎に溶け込めそうな自分がいることに僕は気付いた。僕は都会向きの人間でないのかもしれない。
高校三年の九月だったと思う。僕は東北にある大学からバスケットボールの特待生として来ないかと誘われた。僕はそれを断った。当時僕は今通っている大学を受験するために勉強をしていたし、東京から東北って何となく都落ちするような感じがして嫌だったのだ。まぁ、はっきり言えば田舎で暮らすことに抵抗があったのだ。
でもどうだ、車窓に流れていく田舎の風景に僕の心は癒されている。建物と建物の間に隙間がない都会より、ときおりドーンと現れる田んぼや畑の姿が当たり前のようにある朱雀の方が、僕の心に潤いと安らぎを与えてくれる。
そして驚くことが一つ。この電車(朱雀の人は汽車と呼ぶ)の運転士さんが女性だったのだ。僕はどうしても先頭の車両でなければいやだと駄々をこねる子供ではない。乗り鉄と称される鉄道マニアでもない。僕は女性運転士(この言い方が適切かどうかは読者の方が判断してください)がこの電車を操る姿が見たかった。
僕は先頭の車両に乗り込み、座席に座るのではなく女性運転士さんが見える位置にたった。長い髪。ハンドル(僕には正式名称がわからない)を動かす柔らかな手。美しいラインの後姿。僕はその女性運転士そのものが芸術作品のように見えた。
運転席に入りこんで僕は名前もわからない女性運転士さんを後ろから抱きしめたかった。残念なのは、この女性運転士さんが若すぎるのだ。できれば四十代から五十代くらいの陰のある女性。僕のストライクゾーン、百マイルのフォーシーム。そういう女性をJR東日本が採用しているのかいないのか、僕にはわからない。
僕は彼女が運転する電車に乗っている。前方に見える弥彦山がだんだん大きくなってきた。標高六百三十四m、スカイツリーと同じ高さの弥彦山。僕はその麓の旅館で湯に浸かる。
東京とは全然違う。何が違うのか? 静かだ。異様に静かだ。全然知らない人間がたくさんいて、だから関わり合うことを拒みながら息をするあの妙な感覚が全くない。
だんだん田舎に溶け込めそうな自分がいることに僕は気付いた。僕は都会向きの人間でないのかもしれない。
高校三年の九月だったと思う。僕は東北にある大学からバスケットボールの特待生として来ないかと誘われた。僕はそれを断った。当時僕は今通っている大学を受験するために勉強をしていたし、東京から東北って何となく都落ちするような感じがして嫌だったのだ。まぁ、はっきり言えば田舎で暮らすことに抵抗があったのだ。
でもどうだ、車窓に流れていく田舎の風景に僕の心は癒されている。建物と建物の間に隙間がない都会より、ときおりドーンと現れる田んぼや畑の姿が当たり前のようにある朱雀の方が、僕の心に潤いと安らぎを与えてくれる。
そして驚くことが一つ。この電車(朱雀の人は汽車と呼ぶ)の運転士さんが女性だったのだ。僕はどうしても先頭の車両でなければいやだと駄々をこねる子供ではない。乗り鉄と称される鉄道マニアでもない。僕は女性運転士(この言い方が適切かどうかは読者の方が判断してください)がこの電車を操る姿が見たかった。
僕は先頭の車両に乗り込み、座席に座るのではなく女性運転士さんが見える位置にたった。長い髪。ハンドル(僕には正式名称がわからない)を動かす柔らかな手。美しいラインの後姿。僕はその女性運転士そのものが芸術作品のように見えた。
運転席に入りこんで僕は名前もわからない女性運転士さんを後ろから抱きしめたかった。残念なのは、この女性運転士さんが若すぎるのだ。できれば四十代から五十代くらいの陰のある女性。僕のストライクゾーン、百マイルのフォーシーム。そういう女性をJR東日本が採用しているのかいないのか、僕にはわからない。
僕は彼女が運転する電車に乗っている。前方に見える弥彦山がだんだん大きくなってきた。標高六百三十四m、スカイツリーと同じ高さの弥彦山。僕はその麓の旅館で湯に浸かる。

