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波の音が聞こえる場所で
第4章 エンドオブザロードではなくエンドオブザ線路
 弥彦の神様に願ったところでどうしょうもないことなのだが、できればもう少し電車に乗っていたい。車窓の風景をもっと見たいし、それ以上にビーナスのような女性運転士の後姿も眺めていたいのだ。車内の暖房はいまいちだが、それでも弥彦の駅舎内がここより暖かいという保証はない。
 吉田君に紹介された山水旅館の日帰り湯は十一時からしか入湯できないので、それまでしばらく待たなければならない。幸い餞別の総菜パンがあるので空腹はどうにか避けることができる。でも駅舎内の温度が僕を数時間寛がせてくれることはないと考えるべきだ。逃走者は五感が鋭くなくては生きていけない、多分。情報があるならばその裏側にあるものを探知し、すかさず分析していかなければ逃走の成功はあり得ない。
 六時三十五分、女性運転士が操作する電車がとても滑らかに弥彦駅に入線した。そして僕は驚くべき事実を知ることになる。なんと弥彦駅で降りた乗客は僕一人だったのだ。僕は弥彦山と女性運転士を交互に見ていたので車内の乗客のことなんか眼中になかった。途中、停車した吉田駅で高校生らしい客が何人か降りたのは目にした。でもそのくらいの記憶しか僕にはなくて、車内に何人の乗客がいるのかすら僕は数えていなかった(数える必要なんてないのだが)。これでは逃走者失格だ。鋭敏な感覚を失った逃走者は、もはや逃走者ではない。
 下車する人間は僕一人。でも乗車する人間は何人かいた。電車に乗り込む人間の多くは、やはり学生のようだった。そしてその学生たちの目は僕に向かって来た。彼らの遠慮のない目が、薄いデイパックを背負った僕の格好を上から下まで行ったり来たりした。まるでその目の中には、時間に正確なエレベーターガールがいるような感じがした。
 彼らは皆コートかライトダウンのようなものを着ていて、シャツにジャケット姿のこの土地には不釣り合いな格好をしている僕が珍しかったに違いない。
 確かに弥彦は温泉の街だが、こんな朝早くに弥彦駅に降り立つ人間はいないのだろう。チェックインが朝七時なんて旅館は聞いたことがない。ていうかこの国にはそんな旅館は存在しない。ついこの間まで二十四時間出入りのできる宿泊施設の常連客だった僕でもそれくらいのことはわかる(決して自慢しているのではないし、自慢できることでもない)。
 終点の弥彦駅に着いた車両は折り返して吉田に行く。
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