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波の音が聞こえる場所で
第4章 エンドオブザロードではなくエンドオブザ線路
 キャッシュレス時代に切符ってなんだか変だ。そう思っているのは僕だけではなくて、朱雀山城から弥彦駅までやってきた僕の切符を受け取った駅員も同じだったと思う。彼は(四十代くらい)切符を見て、やはり僕のことを頭から足元までしっかり見ていた。
 でも観光地の駅員は、訝しい顔をすかさず温和な表情に変えて「おはようございます」と僕に朝の挨拶をしてくれた。もちろん僕も「おはようございます」と朝の挨拶を返した。僕は逃走者だが、それくらいの常識はまだある。
 駅舎に入ると左側に待合室があるのが見えた。
「すみません、そこで休んでいいですか?」
 風呂の時間までまだだいぶある。
「どうぞ。暖房も入ってますから暖かいですよ」
 まだ僕にもつきがあった。
「これをそこで食べていいですか?」
 僕はレジ袋に入っている餞別を掲げて駅員に見せた。
「次の列車までまだ時間があるから大丈夫ですよ。しばらくは誰も来ませんから。ゴミの始末だけは忘れないようにしてください」
「ありがとうございます」
 弥彦の神様、ありがとうございます。僕はそう心の中で言った。
 待合室の戸を開ける。待合室を暖めていた暖かな空気に僕は手をぐいと引かれた。待合室には誰もいない。次の電車まで(駅員は列車と言った)少し時間がある。僕は隅にあるベンチに腰かけて餞別の総菜パンとお茶のペットボトル一本を出した。
 味わって食べろと僕は僕の腹に命令したが、僕の腹は僕の言うことを聞いてくれなかった。僕は一気に二つの総菜パンを食べ、そしてペットボトルのお茶一本を飲み干した。
 その勢いでもう二つの総菜パンに手を出しそうになったが、何とかそれだけは堪えた。この先何があるかわからない。僕には金銭的な余裕が今ないのだ。
 ある程度腹が膨らむと眠気が僕を襲ってきた。僕はまともに寝ていない。確かに待合室の中は暖房が効いているのだが、シャツとジャケットだけでは寝るには少し寒い。毛布のようなものがあればいいのだが、そんなこと駅員さんに頼めるはずがない。
 僕は靴を脱ぎ、両足をベンチの上に乗せた。それから僕は膝を抱え身を縮こませて目を瞑った。風邪をひくかもしれないと思った。でも僕の睡魔は僕のそんな不安をなぎ倒して、僕を眠りに世界にぐいと押し込んだ。
 僕は逃走者だが、僕にも睡眠は必要だ。入りこんだ眠りの世界は真っ暗だった。
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