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波の音が聞こえる場所で
第4章 エンドオブザロードではなくエンドオブザ線路
「おめさん、こんがっとこでねてっと風邪ひくてばね」 
 えんじ色のライトダウンを着た老婆は、僕の体を揺すってそう言った。白髪をョートボブにした老婆の顔にはいくつも品のいいしわが刻まれていた。僕は一瞬、日本からどこかの国にワープしたのかと思った。いやいや違う、アニメで見るあの扉はこの時代まだ開発されていない……はずだ。
 きっと僕は寝ぼけているのだ。だから正確に聞き取れなかったのだ。そう考えることが理にかなっている。ところが……。
「ここで何してんのぉてばね」
 やはりここは日本ではない。今僕は金もなければパスポートも持っていない。異国の地で僕はどうすればいいんだ?
「坂口です。坂口翔と言います」
 僕は咄嗟にそう言った。
「しんでっかとおもったて、いかったいかった」
 何となくだが聞き取れた。老婆はこう言ったのだ「死んでいるかと思ったわ。よかったよかった」と、恐らく。
「東京からここに来て休んでました。すみません」
「とうきょうからきたんだかね、てぇへんらったね」
「新潟めちゃくちゃ寒くてびっくりしてます」
「にいがたはとうきょうとちごてばね、こんがっとこでねてっとしぬてばね」
「はい、注意します」
 何だか変だ。通訳を介さずとも普通に会話が成り立っている。
「はいビタミンC」
 老婆はそう言ってたすき掛けにしている茶色の大きなショルダーバックから蜜柑を二つ取り出して僕に渡した。
「ありがとうございます」
 僕はベンチから立って二つの蜜柑を受け取り老婆に礼を言った。逃走を始めて僕は自分が図々しい人間になりつつあることに気付いた。遠慮しなくなったのだ。
「おめさん、せぇえたぁけぇね」
 身長が百五十㎝位(もっと低いかもしれない)の老婆は僕を見上げてそう言った。
「背が高くても女の子にはもてませんでした」
 老婆相手に僕は何を言っているんだ。でもやっぱり会話は成立している。
「おめさん、イケメンらてばね。これからモテモテになってばね」
「ありがとうございます」
 ていうか、僕は老婆の言っていることがまじでわかる。当たり前と言えば当たり前だ。だってここは日本なのだから。
 そして僕は感動している。老婆が使う「イケメン」「モテモテ」がお世辞なんだろうけどなんだかとても新鮮で、僕の逃走を応援している言葉に聞こえたからだ。
 いい朝を迎えた。まだ眠いけど。
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