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波の音が聞こえる場所で
第4章 エンドオブザロードではなくエンドオブザ線路
 せつこさんが電車に乗り込もうとしたとき、そばにいた男子高校生がせつこさんの手を取って、せつこさんが電車に乗るのを手伝った。
 高校の授業が何時から始まるのか僕にはわからないが、遅刻なんかよりも近くにいる老人に手を差し伸べる彼は絶対にいいやつだ。ほっこりする場面を見せられて僕は泣きそうになった。サンキュー高校生!グッジョブ高校生!
 電車のドアが閉まる。せつこさんはロングシートの席に座って窓越しに僕の方に顔を向けてくれた。僕は大きく手をふった。せつこさんはにっこり笑っていた。せつこさんの笑い顔に僕は「いつまでもお元気で」と大きく叫んだ。自分でもびっくりするくらいの大きな声だったので、もし誰かが近くに居たらきっと耳を塞いだと思う。
 電車がゆっくり動き出した。僕は改札口から電車が見えなくなるまで手をふった。
 僕の頬に二筋、熱い何かが流れた。熱い何かは熱い何かなのだ。だからこれ以上僕に熱い何かは何なのかと訊ねないでくれ。
 寒さのせいかもしれないが大量に鼻水も出てしまった。逃走しなければ僕は涙を流すことを忘れたままでいたのかもしれない。男が泣くなんて(時代錯誤の台詞だが)格好悪い? 冗談じゃない。男が泣くって格好いいものなんだ。誰に見られたって構わない。男の涙を堂々と見せてやろうじゃないか。泣くって結構気持ちがいい。 
 改札口にはさっきの駅員さんが立っていた。
「すみません、山水旅館にはどう行けばいいんですか?」
「すぐそこですよ」
 駅員さんは電車がいなくなったホームを指さした。電車と入れ替わるように山水旅館の建物が見えた。駅裏、確かに山水旅館は駅に近かった。
「線路渡れませんよね」
「渡ることなんてできません。山水旅館に行くには一旦この駅を出て左に歩いてください。左に左に、そうすれば山水旅館に到着します。すぐに着きますからのんびり歩いてください」
「ありがとうございます」
 これだけ近ければ間違うことはないだろう。僕は駅員に頭を下げ礼を言った。
 逃走に温泉なんて不釣り合いだが、冷え切った体を再生させたい。それからまた僕は冒険のために一歩前に足を出すのだ。
 心は大分綺麗になった。今度は身を清めなくてはいけない。心身ともにこれから先の冒険に備える。壮大な冒険にならなくても準備は必要だ。
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