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波の音が聞こえる場所で
第4章 エンドオブザロードではなくエンドオブザ線路

山水旅館のお風呂に入るにはまだ時間が早い。確か入浴できるのは十一時からのはずだ。このままずっと入浴できる時間まで弥彦駅の待合室にいることも悪くない。そこそこ暖房は効いているし、おそらく事情を話せば駅員さんも出ていけとは言わないだろう(そもそも事情を説明する必要なんてないが)。
でもそれでは何だかつまらない。逃走者だって、弥彦を探索する権利はあるはずだ。探索する前に山水旅館に挨拶だけでもしておこう。こんな気持ちになれたのも簔口さんや吉田君、そしてせつこさんのおかげだと思う。少しだけ心に余裕ができてきた(逃走者が言うべき台詞ではないとお叱りを受けるかもしれないが)。
僕は駅舎を出た。またあの寒さが僕に突進してきた。でも僕は怯まない。僕は顔を上げて空を見た。快晴。僕の体を休ませてくれた弥彦駅を見た。びっくりした、驚いた、ドキリとした、言い方はいろいろあると思うが、間違いなく僕の目は真ん丸になっていたと思う。駅のようで駅ではない。神社のようで神社ではない。そんな建物が僕の目にどーんと映った。柱や梁は朱く塗られていて、そこだけ見ればまさに神社。後で聞いた話によると、それは木造寺社造り(入母屋造)と言うのだそうだ。流石神様の街の駅舎。ちなみに弥彦は新潟では一二を争うパワースポットなのだそうだ。
僕は弥彦駅に向かい、参拝の二礼二拍手一礼の作法に倣って僕の逃走の成功を祈った……が。実は弥彦神社、参拝の作法は二礼四拍手一礼が正解なのだ。
Light houseの店主久須美は僕にこう言った。
「弥彦神社の二礼四拍手一礼を知ってる新潟の人間なんてわずかだよ。知らない人間の方がめちゃくちゃ多い。それに二礼二拍手一礼でお参りをしたって弥彦の神様は怒らないよ。だから坂口君、二礼二拍手一礼でいいんだよ。坂口君、全然オッケーだから」
僕は弥彦の神様の懐の深さに感動した。ただ、僕は少しだけ不安になった。久須美は許すと言ったが、弥彦の神様は僕の作法についてどうお考えなのだろうか。まさか久須美が勝手にそう言っているだけではないのか。事が事だけに(神様のことなので)、僕は慎重に久須美の話を吟味する必要があるかもしれない(これから先のために)。
でも吟味の必要なんてやっぱりない。寛大な心を持たれた弥彦の神様は。僕の無作法を笑って見ておられただろう……多分。
でもそれでは何だかつまらない。逃走者だって、弥彦を探索する権利はあるはずだ。探索する前に山水旅館に挨拶だけでもしておこう。こんな気持ちになれたのも簔口さんや吉田君、そしてせつこさんのおかげだと思う。少しだけ心に余裕ができてきた(逃走者が言うべき台詞ではないとお叱りを受けるかもしれないが)。
僕は駅舎を出た。またあの寒さが僕に突進してきた。でも僕は怯まない。僕は顔を上げて空を見た。快晴。僕の体を休ませてくれた弥彦駅を見た。びっくりした、驚いた、ドキリとした、言い方はいろいろあると思うが、間違いなく僕の目は真ん丸になっていたと思う。駅のようで駅ではない。神社のようで神社ではない。そんな建物が僕の目にどーんと映った。柱や梁は朱く塗られていて、そこだけ見ればまさに神社。後で聞いた話によると、それは木造寺社造り(入母屋造)と言うのだそうだ。流石神様の街の駅舎。ちなみに弥彦は新潟では一二を争うパワースポットなのだそうだ。
僕は弥彦駅に向かい、参拝の二礼二拍手一礼の作法に倣って僕の逃走の成功を祈った……が。実は弥彦神社、参拝の作法は二礼四拍手一礼が正解なのだ。
Light houseの店主久須美は僕にこう言った。
「弥彦神社の二礼四拍手一礼を知ってる新潟の人間なんてわずかだよ。知らない人間の方がめちゃくちゃ多い。それに二礼二拍手一礼でお参りをしたって弥彦の神様は怒らないよ。だから坂口君、二礼二拍手一礼でいいんだよ。坂口君、全然オッケーだから」
僕は弥彦の神様の懐の深さに感動した。ただ、僕は少しだけ不安になった。久須美は許すと言ったが、弥彦の神様は僕の作法についてどうお考えなのだろうか。まさか久須美が勝手にそう言っているだけではないのか。事が事だけに(神様のことなので)、僕は慎重に久須美の話を吟味する必要があるかもしれない(これから先のために)。
でも吟味の必要なんてやっぱりない。寛大な心を持たれた弥彦の神様は。僕の無作法を笑って見ておられただろう……多分。

