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波の音が聞こえる場所で
第5章 湯口の上の狸に独り言をぶちかましてやる
 幸せを計る物差しなんて色々だ。形も違えば、ひょっとしたらそこに刻まれている一メモリの長さや大きさだって同じものが一つもないのかもしれない。だから僕はこう思う。同じ物差しはこの世に存在しないと。
 お金のあるなしで幸せを計っている人は少なくないと思う。実際のところ僕は金欠のために山水旅館の朝食を食べることすらできないのだ。でも僕はそれを不幸なことだとは思っていない。確かに山水旅館の朝食を食べることができないなんて残念で仕方がない。残念ではあるがだからと言って僕は自分を不幸せな人間だとは思わない。
 僕は強がっているのではない。金持ちに対して僻んでもいないし、金無しの今の自分に僕は酔っているわけでもない。
 山水旅館の朝食は食べられないが、今僕は最高に幸せだ。いや、世界一幸せだ。もう一つ言わせてもらえば宇宙一幸せだ。温泉は体だけでなく、心まで温もりと安らぎを運んでくれる。それらを感じると抱えていた問題はいつの間にかなくなって、頭の中はきれいさっぱり空っぽになるのだ。
 本当に頭の中は空っぽになるのか?
 試しに僕が迎え撃たなければならない当面の危機について考えてみた。僕の前に立ちふさがる難問はめちゃめちゃ多い。でも……。温泉が気持ち良過ぎて考えることがバカらしい。温泉に入って何かを考えるなんて幸せを運んでくれる温泉に対して失礼だ。温泉が僕の悩みを溶かしてくれる。悩みなんてどうでもいいやと言う気持ちになる。
 どうでもいいやと思うと、僕は湯の中で両手両足を伸ばしたまま体を浮かせた。お湯の中で自分の体を解放してやる。瞬間僕は地球の重力から遮断された(実際にはそんなことあるはずはないが)。そして自由を感じる。温泉はどんな人間にも平等に幸せを運んでくれる。
「よっしゃー!」
 僕は思わずそう叫んだ。
 どうして僕は「よっしゃー!」と叫んだのか自分でもわからない。
 僕は湯の中に体を何度も浮かせようとしたが、尻から風呂の底についてしまう。まぁ海水ではないので人間の体が湯の中で浮くなんてことはないのだが、それでも僕は何度も挑戦した。でも何度やっても結果は同じ。湯の中で一瞬体は浮くがすぐに尻から風呂の底についてしまう。
 体が温まってから僕は風呂を出た。それから洗い場に行って備え付けの石鹸とシャンプーで体と髪を洗った。洗って洗って僕は自分の体を洗いまくった。
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