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波の音が聞こえる場所で
第5章 湯口の上の狸に独り言をぶちかましてやる
「面倒くせーよの中だよな。でも風呂の中だけは本音で話し合える。それにここは女人禁制の場所だ。男同士遠慮なくしゃべりまくれるのさ。女の子に誕生日を訊いただけでセクハラになるんだろ?」
「セクハラなんてよく知ってるな」
「かけちゃん、何度も言わせるなよ。おれは世界一物知りな狸なんだ。セクハラ、パワハラ、モラハラ、最近じゃ逆パワハラなんてものあるんだろ?」
「……」
 この狸、まじで只者じゃない。
「基本的人権の基本て何だろうな?」
「憲法も知ってんのか!」
 まじで驚いた。
「俺だって日本で生きてる狸なんだ。それくらい当たり前だよ」
「憲法と狸、何か関係があるのか?」
「あるに決まってんじゃん。俺たち狸は人間と共生してるんだ。人間がどんな考えを持たなければならないのか? どう行動しなければならないのか? それを知っておかないと鍋にされちまうからな」
「狸鍋なんて人間は食わん」
「ジョークだよ。かけちゃん、そろそろ俺という狸をわかってくれ。頼むよ」
「了解だ。なぁキンタ」
「何だい? かけちゃん」
「寂しくないか?」
「ははは」
「おい、笑うなよ」
「ははは、悪かったなかけちゃん、ははは」
「どうして笑うんだ?」
 なぜキンタが笑ったのか、僕は知りたかった。
「みんな俺にそう訊くんだよ」
「みんな?」
「そう、みんな。一人で寂しいだろ。ここから出られないなんて可哀そうだな。そんな感じで俺に話しかける奴らは、おっとお客様たちは最後にそう俺に訊ねるんだ」
「で、どう答えるんだ?」
「寂しくない、それに俺は可哀そうな狸なんかじゃない」
「……」
 どうして? と訊ねたかったがその言葉が出なかった。
「何だか理由を訊きたい顔しているな、かけちゃん」
「ああ」
「なぁ、かけちゃん、この風呂には毎日お客さんが入りに来るんだ。男だけだがな。疲れたお客んさんもいれば、何だか楽しそうなお客さんもいる。さっきも言ったが、そういうお客さんの中には俺なんかに話しかけてくる人もいるんだ。でもさ、みんなこの風呂に入ると第一声が『ふぅっ』なんだ。大金持ちもいるだろうし、小金持ちもいる。もちろんそうでない人もいる。でも一つだけ言えるのはみんな第一声が『ふぅっ』だ。それ聞くとさ、俺幸せになるんだよ。何だかわかんないけど俺めちゃくちゃ幸せなんだ」
「幸せか……」
「そう、幸せ」
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