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波の音が聞こえる場所で
第5章 湯口の上の狸に独り言をぶちかましてやる
 それは絶対に違う。僕は青春ドラマのヒーローなんかではない。ただの逃走者。逃げてるやつが格好いいなんてあり得ないし、あってはならない。
 やらかしたことは腐るほどある……だろう。でもとどめを刺したのは、いやいや違う、僕はとどめを刺されたのだ。思い出したくもないが、まんまと僕をはめたガキの一言だった。僕はあの瞬間ぷちんと切れた。もうそれは見事なまでに切れた。だから手にしてたスマホを地面に叩きつけて、それから踏みつけて、それから……粉々にしたのだ(粉々にはならなかったけど、それくらい僕のスマホがバラバラに破壊されたという意味で)。
 そのガキは、ほんの少し前に会った男から見せられた写真の中にもいた。写真の中のガキを見た瞬間、僕は猛烈に気分が悪くなった。男の前ではなんとか我慢できたのだだが、僕は男から頭に水を掛けられた後トイレに行って思いきり吐いた。
「おい、どうした? 温泉に入って顔色悪くしているやつなんて見たことないぞ」
「キンタのせいだ」
「俺の? どうして?」
「キンタのせいで、僕は今思いきり現実に引き戻された。でもって思い出したくもない光景が今頭の中をぐるぐる回っている。どうしてくれる?」
「かけちゃん、面白いこと言うな。現実って、かけちゃんが生きてる世界はみんな現実だろ? やらかした光景がぐるぐると回ってる。かけちゃん、よかったじゃないか。生きてる証拠だ。死んでたら現実なんて見れないからな」
「他人事だと思いやがって」
「そうだよ。かけちゃんがやらかしたことなんて俺には全く関係がない。俺にはどうでもいいことだ」
「冷たいな」
「俺は狸だ。人間の真似はできない。かけちゃんが泣いたら抱きしめてやりたいが残念ながらそれもできない。見ての通り俺は動けないからな」
「キンタに抱きしめられるのは僕から遠慮する」
「はぁ、狸に抱きしめられる人間なんてかけちゃんが世界で初めてになるかもしれないんだぞ。何だったらテレビ局に電話でもしてやろうか? 決定的瞬間をどうぞ、なんてな。でも今はYouTubeが一番だな。動画上げたら広告収入の一部を俺にバックすることを忘れるなよ」
「それらのすべてを僕は拒否する」
 キンタのジョークに僕は上手く付き合えない。
「かけちゃん、かけちゃんの自慢のいちもつに女難の相が出てる。やらかしたのは女、だよな?」
「……」
 キンタ、お見事。
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