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波の音が聞こえる場所で
第5章 湯口の上の狸に独り言をぶちかましてやる

「このまま逃走を続けるも良し、回れ右して東京に帰るも良し。人生は何でもありだ。だから俺はさ、かけちゃんが決めたことを全力で応援するぜ。いけいけの人生なんてつまらない。かけちゃんみたいにやらかして、でもってまたやらかすやつの方が人間的だ。狸の俺が言うのも何だがな。生きるって案外格好悪いものなんだ。そういうやつらは俺に話しかける。話しかけられれば俺だって答えるさ」
「キンタ、僕は格好悪い男だったんだな」
「かけちゃん、あんたずっと言ってただろ。自分は背が高いだけの男だって。背が高くてももてたことなんてないって」
「そうだ」
「背が高くて格好悪い男にもモテキはあるから心配はするな。でもやらかすなよ」
「……」
「かけちゃん、温まりな。風呂から上がったら総菜パン食って、ビタミンCを体に入れて、それからまた逃走だ」
「キンタ」
「何だい?」
「ありがとな」
「どういたしましてだ」
僕は目を瞑り湯の中で腕を組んだ。腕を組んだからと言って何かを考えたわけではない。キンタがいう悟りの境地に一ミリくらい近づこうと思ったのだ。まぁ全然近づけなかったけど。
寝たらやばいと思ってキンタに話しかけていたが、温泉に浸かって目を閉じても眠気はやってこなかった。悟りの境地の境界線みたいなところで、僕は行ったり来たりの攻防を繰り返していたのだ。残念ながら悟りの境地の側に僕は入りこむことはできなかった。
僕は風呂から上がり、脱衣所で体を拭いてた。そのとき、山水館の御主人が脱衣所にやってきた。
「お風呂いかがでしたか?」
「めちゃめちゃ温まりました。生き返るってまさにこのことを言うのだと思います」
「ははは。それはよかった。ところでうちのキンタ、お客さんに失礼なことなど言いませんでしたか?」
「……?」
「すみません、お風呂が長かったようなので、風呂の中でお客さんが寝ているかと思いまして様子を見に伺いました」
やばい一人芝居をばっちり見られていた。
「すみません気を遣わせて。キンタ、めっちゃナイスガイでした」
僕は下手な芝居を続けることにした。
「お客さん、一つだけよろしいですか?」
旅館の御主人、何だか遠慮気味にそう言った。
「何でしょうか?」
「実はその狸、性別が不明なんです」
「えー!」
「キンタ、僕は格好悪い男だったんだな」
「かけちゃん、あんたずっと言ってただろ。自分は背が高いだけの男だって。背が高くてももてたことなんてないって」
「そうだ」
「背が高くて格好悪い男にもモテキはあるから心配はするな。でもやらかすなよ」
「……」
「かけちゃん、温まりな。風呂から上がったら総菜パン食って、ビタミンCを体に入れて、それからまた逃走だ」
「キンタ」
「何だい?」
「ありがとな」
「どういたしましてだ」
僕は目を瞑り湯の中で腕を組んだ。腕を組んだからと言って何かを考えたわけではない。キンタがいう悟りの境地に一ミリくらい近づこうと思ったのだ。まぁ全然近づけなかったけど。
寝たらやばいと思ってキンタに話しかけていたが、温泉に浸かって目を閉じても眠気はやってこなかった。悟りの境地の境界線みたいなところで、僕は行ったり来たりの攻防を繰り返していたのだ。残念ながら悟りの境地の側に僕は入りこむことはできなかった。
僕は風呂から上がり、脱衣所で体を拭いてた。そのとき、山水館の御主人が脱衣所にやってきた。
「お風呂いかがでしたか?」
「めちゃめちゃ温まりました。生き返るってまさにこのことを言うのだと思います」
「ははは。それはよかった。ところでうちのキンタ、お客さんに失礼なことなど言いませんでしたか?」
「……?」
「すみません、お風呂が長かったようなので、風呂の中でお客さんが寝ているかと思いまして様子を見に伺いました」
やばい一人芝居をばっちり見られていた。
「すみません気を遣わせて。キンタ、めっちゃナイスガイでした」
僕は下手な芝居を続けることにした。
「お客さん、一つだけよろしいですか?」
旅館の御主人、何だか遠慮気味にそう言った。
「何でしょうか?」
「実はその狸、性別が不明なんです」
「えー!」

