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波の音が聞こえる場所で
第6章 救世主現る
 魚屋かけちゃん。何となくだが想像できた。
 が……想像したくないことまで頭に浮かぶ。想像したくないこと、それは僕が魚屋で雇用されるという保証なんてどこにもないということだ。仮に働くことができたとしても、僕は今日どこで休めばいいのだ?  
 その想像したくないことは不安に変わる。僕の体の中のどろどろとした思いは、僕の足に伝わっていく。山水旅館の温泉で取り去ったはずの疲れが、僕の足取りを重くする。魚屋かけちゃんになれなかった方に僕は目を向けなくてはいけない。正直言ってそういうものには目を瞑りたい。だが現実は僕を執拗に追ってくる。
 山水旅館を出発するとき、ご主人に時間くらい聞いておけばよかった。通り過ぎてしまった道の駅にだって時計くらいはある。だから少し戻れば時間くらいは確認できるのだ。でもそれすら億劫だ。ていうか時間の無駄。時間を確認するのに時間の無駄ってなんだか変だ。僕には道の駅に戻って時間を確認するという選択肢はない。
 晴天なのだが、空の色がだんだん薄くなっていく感じがする。見上げると太陽から発せられている光線の勢いが弱い。誰かが描いた水彩画の上に水をばら撒いたような新潟の空の色。黄色い光がめちゃくちゃ薄められて広がる。
 不安は、僕の体のいたるところに妙なものを伝播させていった。疲れ、そして忘れていた寒さと飢え。
 シャツにジャケットでは十一月の新潟を乗り切ることはできない。まして僕は外を歩いているのだ。携帯カイロを十個、いや十個では全然足りない。二十……三十個くらいはまとめて、それをしっかり胸に抱えていても雪国の寒さを凌ぐことは難しい。
 もう一つ。まじで腹減ったー!という絶望感。こいつは体の力を奪い取るだけでなく、やる気と微かに抱えている希望にまで手を伸ばしてくる。こう囁くのだ「もう諦めな」と。
 くじけそうになる自分、絶対に負けを認めない自分。その二人の自分がせめぎ合う。そうであっても僕は魚市場に向けて歩き続けた。そして僕は寒さと飢えについて考えた。
 一日二日食べなくても死ぬことはないだろう。間違いなく今日僕は宿無しだ。テントもなければ僕を暖かく迎えてくっるコンビニもない……多分。
 問題は寒さとどう戦うかだ。こいつは真正面から僕を攻めてくるに違いない。フェイントなんてかけなくてストレートで僕に向かってくる。
 心が折れかけたそのとき……。
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