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波の音が聞こえる場所で
第6章 救世主現る
 左前方五十mくらいのところに、ハザードランプをつけて道路の端に止まっている車が見えた。大きな白のワンボックスカー(車名? 少し距離があるのでわからない)。
 ヒッチハイカーがするように、画用紙なんかに大きな字で行き先を書いて、通り過ぎる車に見せていたわけではないので、その車の運転手は僕を待っているはずがない。
 が……。僕がその車に近づいたとき、運転席のウインドウが下げられた。そして運転手は窓から顔を出して僕にこう言った。
「何してんの?」
「歩いてるんです」
 ふざけたおっさんだ。見れば分かるだろう。僕は寒さと空腹と、そしてもう一つ不安と戦いながら魚市場に向かって歩いているのだ。まぁ、おっさんには分からないだろうが。
「君、どこを目指して歩いているの?」
「魚市場です」
 本当まじでうざい。だから僕は、あなたとなんか関わりたくないんです、という心の底から湧いてくる嫌悪を込めてその言葉をおっさんに送った。
「遠いよ」
「わかってます」
 頼むからおっさんどこかに行ってくれ、と心の中で僕は念じた。
「送っててやろうか?」
「ありがとうございます!」
 新潟の人ってなんか優しい。神様みたいだ(実際は全然違った。それを僕は後々知ることになる)。
 逃走の心得。変わり身が早いということは決して悪いことではない。
 僕は駆け足で道路を渡り、おっさんの車の助手席に乗り込んだ。ちなみに車の名前はハイエース。
 車内はギンギンに、いやギンギンという言葉を間違いだ。ギンギンは真夏に使う言葉であって初冬に相応しくない(あくまでも僕の感覚)。だから僕はこう言いなおす。車内はそれはもうポカポカ温かかった。
 生き返った。何度僕はこの言葉を心の中で言っただろうか。生き返る、それはつまり死の淵まで僕が行っていたということだ。死ななくてよかった。
「寒くないの?」
 おっさんは僕にそう訊ねた。
「死ぬほど寒いです」
 心の中に溜まっていたものをおっさんにぶつける。
「だよね。だってこの季節コートとかダウン着てない人なんてこの辺じゃ中学生くらいだから」
「新潟の中学生ってコート着ないんですか!」
 疑問ではない、驚きだ。
「結構いるよ。部活やってる子供たちなんて雪降らないとダウン着ないから」
「着るべきだと思います。着ないと死ぬでしょ」
「君、新潟の人じゃないね?」
「東京から来ました」
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