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波の音が聞こえる場所で
第6章 救世主現る

久須美が妙な声を上げた。驚き? それとも疑問? みたいなものをごちゃ混ぜにしたような声。
「何か変ですか?」
「ものずごく変です。坂口君は東京の人でしょ?」
「はい」
「若者だよね?」
「はい」
見ればわかるだろ。面倒くせぇおっさんだ。
「坂口君がね、スキー場とかでバイトするのならわかるわけ。バイトをしながらスキーかスノボをする。一石二鳥だよね。いやいやナンパとかしてさ、彼女なんかできれば一石三鳥だよね。坂口君、超ハッピーじゃん。でもこの辺、スキー場なんてないし娯楽場もない。何でここなの? どうしてここでバイトしないといけないわけ?」
「……」
このおっさんには正確に伝えなくてはいけない。だから僕は考えた。考えて考えて考え抜いた。でも嘘は言えないので直ぐに言葉が出ない。そんな僕の様子を知ってか久須美は僕にこう切り込んできた。
「じゃあさ、魚市場って誰に教えてもらえたの? 坂口君、新潟には詳しくないみたいだしさ、でも魚市場を知っていた。ということは誰かに教えてもらったんだよね?」
「はい」
「誰?」
「山水旅館の御主人です」
「山水旅館て?」
「弥彦温泉山水旅館です」
「ということは弥彦から歩いていたの?」
「はい」
「ワイルドだね」
「ワイルド?」
これって誰かのギャグだろうか?
「ということは体力には自信があるわけだね?」
「あります」
「体大きいけどさ、スポーツとかしてたでしょ? 何してたの?」
「中学高校とバスケしてました」
「どうりで背が高いわけだ」
「成績は? 日本代表になったとか?」
「かすりもしませんでした」
日本代表がこんなところ歩くわけないだろ。日本代表はそんなに暇じゃない……絶対に。
「成績は? 高校のときは全国大会に行ったとか? 教えてよ」
「都大会ベスト8が最高の成績です」
「それって凄いの?」
「凄くは……ないかもしれません」
乗せてもらって言うのも何だが、久須美さん、ていうかおっさん、もう話しかけないでくれ。僕のことなんかほっておいてくれ。
「ひょっとして坂口君、僕のことを鬱陶しいとか思っていない?」
「えっ?」
「坂口君、君正直な人間だね。正直な人間、悪くないよ」
「……」
この場面で、ありがとうございますという人間はいない。
「何か変ですか?」
「ものずごく変です。坂口君は東京の人でしょ?」
「はい」
「若者だよね?」
「はい」
見ればわかるだろ。面倒くせぇおっさんだ。
「坂口君がね、スキー場とかでバイトするのならわかるわけ。バイトをしながらスキーかスノボをする。一石二鳥だよね。いやいやナンパとかしてさ、彼女なんかできれば一石三鳥だよね。坂口君、超ハッピーじゃん。でもこの辺、スキー場なんてないし娯楽場もない。何でここなの? どうしてここでバイトしないといけないわけ?」
「……」
このおっさんには正確に伝えなくてはいけない。だから僕は考えた。考えて考えて考え抜いた。でも嘘は言えないので直ぐに言葉が出ない。そんな僕の様子を知ってか久須美は僕にこう切り込んできた。
「じゃあさ、魚市場って誰に教えてもらえたの? 坂口君、新潟には詳しくないみたいだしさ、でも魚市場を知っていた。ということは誰かに教えてもらったんだよね?」
「はい」
「誰?」
「山水旅館の御主人です」
「山水旅館て?」
「弥彦温泉山水旅館です」
「ということは弥彦から歩いていたの?」
「はい」
「ワイルドだね」
「ワイルド?」
これって誰かのギャグだろうか?
「ということは体力には自信があるわけだね?」
「あります」
「体大きいけどさ、スポーツとかしてたでしょ? 何してたの?」
「中学高校とバスケしてました」
「どうりで背が高いわけだ」
「成績は? 日本代表になったとか?」
「かすりもしませんでした」
日本代表がこんなところ歩くわけないだろ。日本代表はそんなに暇じゃない……絶対に。
「成績は? 高校のときは全国大会に行ったとか? 教えてよ」
「都大会ベスト8が最高の成績です」
「それって凄いの?」
「凄くは……ないかもしれません」
乗せてもらって言うのも何だが、久須美さん、ていうかおっさん、もう話しかけないでくれ。僕のことなんかほっておいてくれ。
「ひょっとして坂口君、僕のことを鬱陶しいとか思っていない?」
「えっ?」
「坂口君、君正直な人間だね。正直な人間、悪くないよ」
「……」
この場面で、ありがとうございますという人間はいない。

