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波の音が聞こえる場所で
第2章 JR上野駅と演歌についての考察、そして子供たち
 JR大宮駅から僕が乗っている自由席に乗り込んでくる乗客はいなかったし、大宮駅で下車する乗客もいなかった。
 僕は窓のカーテンを閉めた。幸い僕の隣には誰も座っていない。勝手にカーテンを閉めたところで僕は誰かから責められることはない。仮に僕の隣に会ったこともない誰かが座っていたとしても、その誰かだって真っ黒な中にときおり見える光の玉を数えることなどしないはずだ。おそらく暇つぶしのための本を持っているだろうし、最強の味方スマホだってあるに違いない。だから乗客の目は窓の外には向かわない(断言できる。今はそういう時代なのだ)
 僕がカーテンを閉めたのには別の理由がある。残念ながら僕は文庫本を持っていない(デイパックの中には塾で教える教材が入っているだけだ)。スマホとは東京で縁を切って来た。そして少しの間、演歌とJR上野駅について自分なりの知識(とても浅い知恵だが)を総動員して考えを巡らしてきた。でもタイムオーバー。それは僕の人生が終わったという意味ではない。僕は生きているし、逃走した人間にも生き続ける権利はある。時間切れ、それは演歌とJR上野駅についての考察が終わったという意味だ。
 考察を終えて得た結論→北の街、山ではなく海辺の街。雨……ではなく雪、でも豪雪に至らない程度の雪。男と女……決して結ばれることのない二人の愛。それらを繋ぐJR上野駅、出発駅であり終着駅であるJR上野駅。
 深く考え、そのせいで窓に映るくたびれた自分の顔なんて見たくない。いや、正直に言う、逃走している僕の顔を僕は見る自信がないのだ。何かから(今はその何かを見つめることが僕にはできない)逃げている男の顔、そんな顔なんて僕じゃなくても見たくないはずだ。
 逃げ始めたときの胸の鼓動も今は和らいだ。スマホを壊すという浅はかな行為を今僕は悔いている。段々僕は冷静さを取り戻してきた。心が落ち着けば落ち着くほど僕は自分が惨めでみっともない人間であることに気付いた……ではなく気付かされた。
 平静になると僕は覚悟した。僕は東京からどこか遠くに逃げている。体だけではなく、僕は僕の心も東京から離してやる。違う違う、また僕は僕を誤魔化そうとしている。東京に何一つ罪などない。あるとすれば東京という街で暮らした僕の過去のあれこれ。過去は消すことができない。そうであっても僕は僕の昔に背を向ける。
 
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