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波の音が聞こえる場所で
第7章 誠に遺憾ではあるが、ここから冒険を始めることにする。
「坂口、いつまでてれてれ買い物してんのよ。男の買い物なんてちゃっちゃととするものなの。あんたさ、女にもてないだろ? 決断の遅い男に女はなびかない。たとえ高身長でも女の心を惹きつけない。どうすんの坂口?」
「……」
 どうすんのと言われても、男物の品物が少なくて、それに高身長の僕に合うサイズがそもそもないのだ。そしてこの時代に「男の買い物」という世間を意識しない言葉。
「坂口、今日は作戦会議の日なんだから、掃除も早く終わんないといけないのよ。あんたがのろのろしていると掃除ができないじゃない。あんた、それでも六大学?」
「……」
 福さんは六大学の使い方を間違っている。六大学って野球のリーグのことで、僕の在籍している大学がそのリーグに加入していて、でもって僕は野球なんてしてないし、だから……。考えるのは止めよう。おそらく福さんはこれからも僕の不手際を見つけるたびに六大学を持ち出すに決まっている。だが一言だけ言っておく。僕は六大学を代表して冒険をしているわけではない。
 そのときだった。
「おはようございます」
 めちゃくちゃ明るい声が店の入り口から聞こえてきた。身長が百六十㎝くらいの坊主頭の少年がそこに立っていた。
「いっちゃん、おはよう」  
 福さんが、入り口に立っている坊主頭のいっちゃんに笑って朝の挨拶をした……。何か引っかかるものがある。何だ……何だ……。あっ!態度が全然違うじゃん!
 坊主頭の少年には「いっちゃん」そして僕を「坂口」と呼び捨て。どうしても僕は僕を納得させることができない。するといつのまにかそのいっちゃんが僕の前で笑っている。百六十㎝の坊主頭は僕を見上げてこう言った。
「大道一直と言います。どうぞよろしくお願いします」
「だいどういっちょく?」
 僕は坊主頭の少年の言葉を繰り返した。
「いっちゃんは善養寺の御住職の息子さん」
 福さんの丁寧な紹介。
「いっちゃん、こいつ坂口ね。坂口ばける、じゃなくて坂口翔」
 福さん、これって差別ですか? と突っ込みたくなるようなつまらないギャグ。
「坂口翔です。どうぞよろしく」
「背高くてカッコいいです」
 不愉快だった気分を吹っ飛ばしてくれる坊主頭の、もとい、いっちゃんの一言。
 何だか涙が出そうだ。「カッコいいです」人生で初めて言われた。いっちゃん、記念にもう一回言ってくれないだろうか……無理か。
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