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波の音が聞こえる場所で
第7章 誠に遺憾ではあるが、ここから冒険を始めることにする。

「いっちゃん、悪いんだけどさ、坂口のアノラック一緒に探してくれない? 坂口、探せないんだよね。頼むわいっちゃん」
福さん、アノラックって何ですか? って言いたかったけどやめた。
「はいわかりました」
「いっちゃんは素直でいい子だね。坂口、いっちゃんと一緒にアノラック探して。わかった?」
「はいわかりました」
えっ!福さん無反応。これって誰が見ても差別だよね、と僕は心の中で毒づいた。
「いっちゃん、アノラックって何?」
福さんが事務所に行ったのを確認して僕はいっちゃん訊ねた。そして僕もこの坊主頭の少年をいっちゃんと呼ぶことにした。
「これです」
いっちゃんは自分が着ているウインドブレーカーを掴んで僕に教えてくれた。
「アノラックって厚手のウインドブレーカーのことか」
「みんなアノラックって言ってますけど。先輩、こっちです」
僕はいっちゃんの後に続いた。ん? 何か……いい気分なんだけど……。おおおお!先輩!確か遠い昔、そう呼ばれていたことがあった。高校のバスケ部で、僕は下級生にそう呼ばれていた。僕にも歴史があった。あったんぞ!とガッツポーズしたかった。
「男性用だとこれしかないですね。ちょっと先輩には小さいかな」
ハンガーから紺色のアノラックを外していっちゃんはそう言った。僕の目にアノラックなんか映っていない。僕は今、先輩という言葉の余韻に浸っている。
「先輩、試着してみてください」
あいよーと言いたいところを我慢して、僕はいけてない紺色のアノラックに袖を通した。小さい、ダサい、でもって爺臭い、それが僕の感想だ。
「小さいですよね。でもこれより大きいのないんだよな」
そう言いながらいっちゃんは、吊るされている別のアノラックの中から、僕のサイズに合うものを探してくれた。
「これでいいよ、いっちゃん」
店員さんを困らせてはいけない。僕はおっさんくさくてサイズが合わない紺色のアノラックの購入を決断した。
「五千円って高いですよね」
値札を見ていっちゃんはそう言った。
「五千円……五千円!」
僕は一気に現実の世界に戻された。でもこれがないと確実に僕は死んでしまう。
「どうします?」
ここで怯んでは先輩の名が廃る。
「買うよ」
いっちゃん、僕の声の中に迷いがあることは無視してくれ、と僕は願った。
福さん、アノラックって何ですか? って言いたかったけどやめた。
「はいわかりました」
「いっちゃんは素直でいい子だね。坂口、いっちゃんと一緒にアノラック探して。わかった?」
「はいわかりました」
えっ!福さん無反応。これって誰が見ても差別だよね、と僕は心の中で毒づいた。
「いっちゃん、アノラックって何?」
福さんが事務所に行ったのを確認して僕はいっちゃん訊ねた。そして僕もこの坊主頭の少年をいっちゃんと呼ぶことにした。
「これです」
いっちゃんは自分が着ているウインドブレーカーを掴んで僕に教えてくれた。
「アノラックって厚手のウインドブレーカーのことか」
「みんなアノラックって言ってますけど。先輩、こっちです」
僕はいっちゃんの後に続いた。ん? 何か……いい気分なんだけど……。おおおお!先輩!確か遠い昔、そう呼ばれていたことがあった。高校のバスケ部で、僕は下級生にそう呼ばれていた。僕にも歴史があった。あったんぞ!とガッツポーズしたかった。
「男性用だとこれしかないですね。ちょっと先輩には小さいかな」
ハンガーから紺色のアノラックを外していっちゃんはそう言った。僕の目にアノラックなんか映っていない。僕は今、先輩という言葉の余韻に浸っている。
「先輩、試着してみてください」
あいよーと言いたいところを我慢して、僕はいけてない紺色のアノラックに袖を通した。小さい、ダサい、でもって爺臭い、それが僕の感想だ。
「小さいですよね。でもこれより大きいのないんだよな」
そう言いながらいっちゃんは、吊るされている別のアノラックの中から、僕のサイズに合うものを探してくれた。
「これでいいよ、いっちゃん」
店員さんを困らせてはいけない。僕はおっさんくさくてサイズが合わない紺色のアノラックの購入を決断した。
「五千円って高いですよね」
値札を見ていっちゃんはそう言った。
「五千円……五千円!」
僕は一気に現実の世界に戻された。でもこれがないと確実に僕は死んでしまう。
「どうします?」
ここで怯んでは先輩の名が廃る。
「買うよ」
いっちゃん、僕の声の中に迷いがあることは無視してくれ、と僕は願った。

